酷い頭痛と吐き気でミソラは目を覚ます。
　見慣れた医務室の天井にホッとしながらミソラは側にいてくれるだろう医者の名を呼ぼうとしたが、声は出てくることはなかった。
　そっと喉に手を触れてみるが異常は無い。

　『ミソラ』

現れた黄緑色の外装にミソラは微笑みかける。

　『声が出ないのかね？・・・水分補給をしてみよう』

どこからかコップを手にしたラチェットはソレを差し出してくる。
　身を起こしたミソラはコップを両手で持つと、一口ずつ噛みしめるかのようにゆっくりと水を飲んでいく。
　ジワリと身体の内側に染み渡っていく水の感触にミソラはホッと息を吐く。

　『どうかね？』

　「・・ん、大丈夫かも」

声を出すと少し喉の奥が痛むが、きっとすぐに治るだろうとミソラは思い笑う。
　自分の身体を見下ろすといつもと変わりは無かった。
　
　『何日くらい寝ていたの？』

　『一週間』

　『そっか・・・迷惑掛けちゃったね。アイアンハイドは？』

　『あの馬鹿なら問題ないと判断された直後、サイドスワイプと訓練を開始したよ・・・全く呆れてモノも言えんな』

排気を一つしたラチェットであったが、彼が無事に蘇ったことを喜んでいるのは間違いない。
　空になったコップを持つ手に少しだけ力を込めたミソラは口を開く。

　「オプティマスは大丈夫？」

優しい彼の事だ、このような結果になってしまったことをきっと誰よりも悔いているだろう。その苦しみを誰にも伝えず、ずっと自分を責め続けているのは間違いない。

　『・・・平静を装っている』

　「会いに行っても良い？」

　『駄目だと言っても行くのだろう？なら私が運ぼうか』

差し出された手をミソラは驚いたように見上げる。
　反対されるだろうと思っていたのだ。
　きっとそれほどまでにオプティマスは傷ついているのだとミソラは理解すると、ベッドから下りてラチェットの掌に乗る。
　
　『誰が悪いわけではないのだがね』

　「・・・でも、自分を責めているんだよね」

　『全く困ったものだよ』

ラチェットの脳裏にオプティマスの姿が思い浮かぶ。
　毎日、日付が変わる直前にやってきたオプティマスは祈るようにミソラを見つめていた。明日こそ目が覚めるようにと、明日こそ言葉を交わせるように、明日こそ微笑みかけてくれるようにと。
　そんな彼をラチェットはこの一週間ずっと見てきたのだ。

　『いつだって困り果てた王子様を助けるのは勇猛果敢なお姫様の仕事だな』

　「ラチェット」

　『おや？私としたことが逆だったな』

これは失礼。
　そう言って謝罪をしたラチェットだったが、本心から謝っていないことは明らかだった。