膝に額を押しつけながらミソラは座り込んでいた。
　人の気配がない静かな空間でたった一人で座り込み、先程自分が言ってしまった発言がいかに浅はかさだったのか理解して悔やみ、そして打ちのめされていたときだった。
　大きなエンジンの音が聞こえてくる。
　思わず上げそうになった顔を必死に膝に押しつける。

　「（いつも、そうだ・・・・）」

ミソラが苦しんだり、悩んだり、悲しんだりしていると彼は、オプティマスはやってきてくれる。
　時には優しい言葉を囁いたり、無言のまま側にいてくれたり、恐る恐る触れてきたりしてくれるのだ。

　『ミソラ』

自分の名を呼んでくれるオプティマスの声がミソラは好きだ。
　気づけばミソラは膝から額を離していて、そっとオプティマスへと視線を向けていた。
　トランスフォームをしたオプティマスは視線を少しでも合わせるためかがみ込む。
　立ち上がったミソラは彼の青い目を見つめながら口を開く。

　「ごめんなさい」

　『・・・私の方こそ、すまなかった。もっと言葉を選べば良かった。だが君を失うと思えば私のブレインは正常な判断を下せない』

　「だったら、尚のこと私が悪いよ・・・よく考えてみれば、私だって逆の立場だったらきっと反対していたもの」

そっとオプティマスの頬へと触れる。
　慣れ親しんだ金属の感触にミソラは目を細めて笑う。
　一度は失ってしまった命、その命はサムの手によって蘇生されたのだ。
　その時のことを今でも時々夢に見るというのに、自分は同じ事を彼にしようとしていたのだ。

　「・・・もう言わないから」

大丈夫だと言うかのように微笑んだミソラはオプティマスから手を離す。
　その目がとても悲痛なものであることにオプティマスは気づく。
　ミソラの申し出にスパークが揺るがなかったのかと問われれば嘘だ。
　失った仲間達と再び会うことが出来る。
　ふと、オプティマスの脳裏に遠い過去に袂を別けた友の姿が思い浮かんだ時だった。無意識の内にその言葉を口にしていた。

　『奇跡を願ってはいけないだろうか？』

　「え？」

驚いたように開かれた瞳がオプティマスをとらえる。
　当のオプティマス本人は自分が何を言ったのか信じられないと言うかのようにカメラアイをカシャカシャと動かしていた。
　ブレインが下す判断を優先とするトランスフォーマー、その自分が何の根拠もない奇跡を口にしたことがオプティマスには信じられなかった。

　「オプティマス？・・・でも、私は」

ラチェットの言葉を思い出したらしいミソラの決意は揺らいでいた。
　人間だって彼女は救いたいのだろうが、オールスパークの奇跡は金属生命体にしか作用されないのだ。
　それを解った上でオプティマスは口にする。

　『私が君を守る』

どんなものからも守り通してみせる。
　そう告げるかのようにオプティマスの強い瞳がミソラを射貫く。
　その言葉と込められた意思に気づいたミソラの瞳に涙が浮かぶ。

　「ずるいよ、オプティマス」

抗う心を無理矢理納得させたというのに、オプティマスの言葉一つで心はこんなにも簡単に揺らいでしまう。
　信じてみたくなってしまう、奇跡を起こしてしまいたくなるのだ。

　「・・・私も貴方を守るから」

オプティマスの首筋に顔を埋めたミソラは彼にだけ聞こえるような声で囁いた。
　その言葉に応えるかのようにオプティマスの手がそっとミソラを包み込んだ。
　今ならば、どうしようもないほど無謀な奇跡ですら、叶えられそうだとミソラは思い笑った。