三人は言葉を失ってカマロを見つめることしか出来ない。何故ならばカマロの中は無人だったからだ。
　無人の車が勝手に走り、そして自動ドアよろしく勝手に開く。
　そんな事実に三人の頭はフリーズしていたのだが、最初に我に返ったのはサムだった。

　「乗って」

小さな声だったがしっかりとしたその声は二人の耳にも届く。
　次に我に返ったのはミカエラだ。

　「嫌よ、絶対に嫌！！」

　「そんな事言ってる場合じゃないだろ！！」

何が起きているのか理解が出来ない中でサムは必死に正解を探す。
　自分達が生き残るための。
　そしてその答えが目の前にあるカマロしか持っていないのだと判断する。
　全ての始まりとも言えるこのカマロにしか助かる道は無いとサムは見いだしたのだ。

　「ミソラ！」

　「ッ！！」

強い声で名を呼ばれ手をさしのべられる。
　嫌だと言うかのようにその手に向かい、ミソラは首を横に振る。
　意味も無く涙が溢れ、それに気づいたサムの顔が曇った。
　
　「大丈夫だから。僕を信じて」

手を取ってくれ、そう言うかのようにサムは手を伸ばす。
　その手は昔から見慣れた手だ。
　カマロのことも迫り来るロボットのことも信じられない。
　だが、この手は信じられる。

　「うん！」

恐怖で声が引きつるがミソラはサムの手を掴み立ち上がる。
　ふらつく足を叱咤し、覚束ない足取りでカマロに近づくと後部座席に座り込む。
　カマロの外では未だに嫌だと抵抗するミカエラに対し、サムは半ば強引とも言えるかのような形で車の中に押し込むと、自身も車に乗り込んだ。
　三人が乗り込んだのを理解したカマロの扉が閉まる。
　凄まじい勢いでタイヤが回転し、土煙を上げながらカマロは走り出す。

　『小僧、逃がさんぞ！眼鏡をよこせ！』

　「眼鏡？」

何を言っているのだとミソラは顔を顰めつつも、迫り来るロボットへと視線を向けた。
　ギラリと光る赤い瞳と目が合い、体がブルリと震える。
　ぎゅっと手を握りその恐怖を押さえ込む。
　走り出したカマロを追いかけるためか、迫ってきていたロボットの体も変形を始める。
　変形したロボットはパトカーだ。
　そのことに驚きつつも熾烈なカーチェイスは始まる。
　だが、スポーツカーとパトカーの勝負はカマロの勝利で終わる。
　カマロが死角となる場所へと身を潜めると、少し遅れてパトカーが通り過ぎていく。
　パトカーが通り過ぎるまでの間、三人は知らず知らずのうちに息を殺していた。

　「・・・行くよ」

小さな声でサムがそう呟いた直後、通り過ぎようとしたパトカーがその声を聞いたかのように止まる。
　ソレを合図にカマロは凄まじい勢いでその場から走り出す。
　ある程度走った直後、カマロの中が慌ただしく動き始め、三人は地面へと下ろされた。
　何が起ったのだろうかと思いながらミソラが頭上を見た瞬間、そこには目を疑うかのような光景があった。
　見覚えのある色をしたロボットが居たのだ。

　「ミソラ！逃げるよ！！」

呆然とするミソラの腕を掴んだサムが走る。
　背後から聞こえてくるのはロボット同士の凄まじい戦いの音。
　その音に身を震わせていたミソラは不意に自分の腰のあたりに何か違和感を感じ取った。
　恐る恐る、その場所へと視線を向けるとそこには目を疑う光景があった。
　銀色の何かがミソラの腰にしがみついていた。