逃げるサム、追いかけるカマロ、そんな二人を追いかけるミソラ、という奇妙な光景がそこにはあった。
　二人を追いかけていたミソラはかなり遅れているが、息も絶え絶えな様子で必死に追いかけていたのだが二人を見失ってしまう。

　「え・・・嘘でしょ」

肩で息をしながら呆然としていたミソラであったが、背後から声をかけられる。

　「ねぇ、あなたってサムの家に住んでいる子よね？」

振り返ったミソラの目に飛び込んできたのはミカエラだ。
　意外な人物の登場に驚きながらもミソラは返事をする。
　
　「そうだけど」

　「彼、何かあったの？車に追われてるとか言っていたけど・・・」

　「ちょっと色々あって、その、ほら！思春期だから！！！色々と忙しいんだよ、思春期だから！！！」

　「思春期、ねぇ」

　「それよりもミカエラさん、サムのこと見なかった！？」

　「ミカエラで良いわよ。サムならあっちに走っていったけど？」

　「ありがとう！」

ミカエラが指さした方向に向かい走り出そうとしたミソラであったが、ミカエラに腕を掴まれてしまい、その場で踏鞴を踏む。
　何をするんだと恨めしげな視線を向けるのと同時に、ミカエラはヘルメットを押しつけてくる。
　どういう意味だとポカンとした顔をしてミカエラを見つめるミソラに対し、ミカエラは不敵に微笑みながら自身もヘルメットを被る。
　
　「追いかけるんでしょ？付き合うわ」

　「・・・でも」

スクーターにまたがったミカエラは自身の後ろを指さす。
　どうしようかと一瞬迷ったミソラであったが、走るよりも乗り物の方が確実に早いと判断するとヘルメットを被り彼女の後ろに座る。

　「飛ばすわよ、しっかり掴まってて！！」

エンジンの振動音が伝わってきた直後、スクーターは凄まじい勢いで走り出す。
　ミカエラにしがみつく形でミソラは彼女の前を見つめていると、遠目からでも解るカマロの黄色が見えた。

　「ミカエラ、アレ！」

　「ＯＫ！これなら追いつける」

加速しようとしたミカエラであったが、行く手を遮るかのように突然進路に飛び出してきたパトカーに気づくと慌てて速度を落とし、その場に止まる。
　まるで二人が急いでいることを解っているかのように、パトカーは嫌がらせのようなゆっくりとした速さで二人の前を通り過ぎていく。
　パトカーが去った後、前を見た二人の視界の中にあの黄色いカマロは居なかった。

　「ごめん、あのパトカーのせいで見失った。この辺を少し走ってみるね」

　「ありがとう」

　「いいのよ。私もちょっとサムの様子気になるし」

ゆっくりと走り出したミカエラの言葉にミソラはこれはもしかすると、もしかするかも知れないなと人知れずひっそりと笑う。