翌日帰ってきたサムはげっそりとしていた。
　何故か解らないが持ち主であるはずのサムが車泥棒と勘違いされたらしく、一晩警察のお世話になってから帰宅したのだ。

　「モージョの薬なんて飲むわけ無いのに」

車泥棒だけではなく薬をやってハイになっていると判断されたらしく、それはそれは厳しい追及があったらしいサムは疲れ果てていた。
　結局、車は行方知れずのままだ。

　「サム、大丈夫？」

　「・・・あんまり大丈夫とは言えないよ」

二重の意味でサムはげっそりとしていた。
　ソレは昨夜のことだ。
　車を追いかけるためウィトウィッキー家を飛び出していったサムを見送り、警察に車の盗難に遭ったと伝えたミソラが携帯の通話を切った直後、サムから電話が入ったのだ。



　「ちょっとミソラ！どこに電話してたのさ！」

　「警察だけど・・・サム、今どこに居るの？」

　「廃工場！って違う、そうじゃない！！良く聞いて、ミソラ。これはもしかしたら僕の遺言になるかもしれない」

　「遺言？サム、どうしたの？」

　「僕の車、ロボットに変身したんだよ！二足歩行の！！」

　「・・・・サム。カマロが盗まれたのはショックなのは解るよ。がんばっていたもんね」

　「なんだよ、その哀れむような声は！！本当なんだって！！嘘じゃ無いんだ！！！」

　「もうすぐ警察がそっちに行くと思うから、ちゃんと話をするんだよ。大丈夫、落ち着いて話せば解ってくれるよ。通話してたら警察から電話があっても解らないから切るよ？」

　「ちょっと！？」



錯乱していたサムはついに一線を越えてしまったんだなと、もしくは夢を見たのだなとその時は思っていたのだが、サムの様子からあれは嘘では無いのではだろうかとミソラには思えた。
　
　「もう散々だよ・・・」

　「いつまでも落ち込んでいたって仕方ないよ？ほら、飲み物でも飲んで気持ちを切り替えようよ？」

努めて明るい声でそう提案したミソラの言葉に、サムはぎこちなく微笑む。
　不意にその時、窓の外を見ていたモージョが外に向かって凄まじい勢いで吠え始める。
　
　「モージョ、うるさいぞ！・・・うん、そうだね。なんか飲んで気持ちを切り替えるよ。」

パチンと自分の頬を叩いたサムは冷蔵庫から飲み物とを取り出す。
　モージョの名を口ずさみながら飲み物をグラスに注ごうとしたとき、二人の耳に聞き慣れたエンジン音が聞こえてきた。
　その音にサムの顔から血の気が引き、持っていた飲み物を床に落とす。
　吠え続けるモージョの視線の先にあるものに向かい、二人の視線は釘付けになっていると、何事も無かったかのようにカマロが帰ってきた。

　「・・嘘だろ、嘘だろ！？」

　「サム？」

　「あの車！僕を狙ってる！！僕のことを狙ってるよ！！！」

酷く取り乱したサムに向かい、ミソラはとりあえず落ち着かせなければと思い彼の肩を叩いたのと同時にサムは走り出す。

　「ちょっと、サム！？」

悲鳴を上げながら玄関に向かったサムは最初に目に飛び込んできたジュディの愛用のママチャリに飛び乗ると、力一杯ペダルを漕いだ。