車を購入してからというものサムがご機嫌であることは家族の誰もが知っていた。理由こそ話さないものの、彼の周りには花が舞っているかのような幸せオーラが常に出ている。
　恐らく憧れのミカエラと上手くいったのだろうなとミソラは思うと、自分のことのようにそのことが嬉しかった。



　「ミソラ！今度ドライブに行こうか」



あの静電気事件以来、サムはミソラが車に触れることを嫌がり、近づくことすら禁止していたのだ。
　だが、念願のミカエラとのドライブができたことにサムはご機嫌であった。
　ドライブの誘いもきっと次にミカエラと行く場所の下見に違いないとミソラは解っていたが、そうでもなければカマロに乗る機会は滅多に無いため笑みを浮かべて喜んでおいた。

　「ドライブデートも良いけどサムはちゃんと課題やっているのかな？」

その日、ミソラは学校の課題をやっていたのだがいくつか授業では習っていない部分があったため辞書を引いて遅くまで勉強をしていた。
　隣の部屋にいるサムはすでに眠っているらしく物音一つしない。
　課題教科の先生は厳しいことで有名で、出される課題もかなりレベルの高いモノだ。それをサムは解っているのだろうかと考えるが、サムのことだからきっと直前になりノートを写させて欲しいと言ってくるのだろうと予想し苦笑を浮かべる。
　きりの良いところまで仕上げたミソラは机の上の時計へと目を向ける。
　時刻はすで日付が変わっており、知らず知らずのうちに集中しすぎていたなと思い苦笑を浮かべると明日のためにも寝ようと決め、教科書と辞書を閉じるとスタンドライトを消す。

　「・・・期限もまだあるし残りは明日やろうかな」

すでに就寝準備は終えているので後はベッドに入るだけだ。
　電気を消し、ベッドへと滑り込んだミソラはすぐに襲ってきた睡魔に身を任せる。しかし、眠りに落ちていることが出来たのはほんのわずかな時間だ。
　元々それほど眠りが深くは無いミソラは、聞こえてきたエンジン音に目を覚ます。

　「カマロ？」

カーディガンを羽織り窓から外を見てみると、サムのカマロが動いていた。
　そのことに気づいたのと同時にミソラは部屋を飛び出し、隣の部屋へと駆け込んだ。
　音を立てて開かれた扉の音に驚いたサムが飛び起きる。

　「な、なになになに！？・・・・ミソラ？ちょっと！入るときはノックしてって言っているだろ！？家族でもプライバシーは大事ってミソラも父さん達に一緒に抗議しただろ！？ってか勝手に入ってこないでよ！？今何時だと思っているわけ！！！」

　「そんなことよりサム、あなたの車が盗まれてる！！外見て外！！」

　「えぇ！？」

車のことを口にした瞬間、サムは窓へと飛びついた。
　彼の目に映ったのはどこかに向かって颯爽と走って行く自身の愛車のバックライトだ。

　「うそうそ！！うそだろ！？」
　
　「嘘でも無ければ夢でも無いよ！！警察に電話しないと！！」

自身の携帯は部屋に置いてあるため、サムに向かいそう提案したミソラの言葉にサムは頷くと携帯を手に取り走り出す。
　
　「え・・・ちょっと！？サム！？」

　「警察が来るまでの間に逃げられるだろ！？追いかけるんだよ、どこに向かっているのか伝えるんだよ！！！ミソラは家に居て！もしも警察が着たら僕の黄色いカマロが盗まれたって説明しておいて！！」

慌ただしく家を飛び出していったサムの後ろ姿をミソラは呆然と見つめる事しかできずにいた。
　外に出たサムは走り去っていく車に向かい「僕の車返せー！！」と声を張り上げながら走っている。

　「・・・サム、車相手に走って追いかけるのは無謀だよ」

ため息一つ吐いたミソラは警察に電話をすることを選ぶ。
　動揺しているサムのことだからきっと上手く説明することは出来ないだろうと判断したのだ。