開いた窓から尚も続けられるサリーのお説教にチャーリーはうんざりだと言うかのように前を見たときだ。
　ワゴン車を運転していたロンへとサリーが何かを告げると、ロンは任せろと言うかのように頷くと突然車のスピードを落とす。

　「・・・・アイツ何する気なの？」

不安と苛立ちで目を細めたチャーリーはバックミラー越しにワゴン車の動きを監視していると、突然ワゴン車は左右へと車体を揺らし始める。
　まるでその動きは背後に居る軍用ジープを妨害するかのような行動であった事にチャーリーは驚いたように目を見張っていたが、ロンの意図を悟ると意を決したかのように思い切りアクセルを踏んだ。

　「チャーリー？」

何をするきなのだ？と問うかのようにセツナが名前を呼ぶがチャーリーはスピードを落とすようなことはしない。

　「ロンの考えなんて解らないけど、でもこのチャンスを逃すわけにはいかないでしょ？軍用ジープとカーチェイスなんてしても勝ち目は無いもの」

車両に装備されている銃から狙撃を行われればビークルの姿になっているバンブルビーには反撃する手段は無い。
　むしろこのままタワーの場所まで着いてこられれば、シャッター達と軍を相手にバンブルビーは孤立奮闘することになってしまう。
　
　「ビー。いざって時には任せるからね」

　『”ＯＫ！””準備は万端だぜぇ！！！”』

喜んで運転を引き受けると言うかのようなバンブルビーの返答にチャーリーは微笑みながら頷く。
　チャーリーの視線はバックミラーに向けられており、背後で行われるマイアミバイスのようなカーチェイスをジッと見つめていたときだ。
　信号無視する形でロンの運転するワゴンが交差点に突っ込む。
　その姿に気づいたらしいトラックが慌ててブレーキを踏むのと同時にハンドルを切ったらしく大きく逸れていく姿にチャーリーは絶句した。

　「え？嘘でしょ・・・」

ワゴン車とトラックが衝突事故を起こす、そう思ったチャーリーはハンドルから手を離すと背後へと顔を向けた。
　セツナも思わず背後へと視線を向けると交差点に集まっていく何台かの車の姿があった。
　最終的には大きな事故を起こすことはなくロンの奮闘は終りを迎えた。
　横転した軍用ジープ、自家用車、トラック、の姿を見たチャーリーとセツナはホッと胸をなで下ろしていた。
　ロンは意外なことにチャーリーの手助けをしてくれた。
　その結果、交差点で事故を起こすという結果になってしまったが被害に遭ったのは軍用ジープだけで、それも横転しただけという事は不幸中に幸いだった。

　「ロンさんって実は良い人だったりするかもね」

　「誕生日に意味不明な本をプレゼントしてくるのに？」

　「・・・チャーリー。センスってものは時にはどうすることも出来ないんだよ？」

　「まぁね。確かにその通りだわ」

その部分だけはもしかしたら今後は諦めなければならないかもしれないなぁ。
　そう呟いたチャーリーの言葉にセツナは驚いたように目を見張ったが、すぐに嬉しそうに目を細めて笑う。
　父親が死んでからずっとその目から光を失い、まるで死んだように生きていたチャーリーだったが最近では少しずつ、以前の彼女に戻ってきていた。

　「（貴方と出会えたから）」

カナリアイエローのドアをそっと愛おしげにセツナは撫でたときだ。
　埠頭に近づいてきたらしく窓から流れ込んでくる風から磯の臭いが混じり始める。

　「ビー・・・見つかったら色々と面倒になるだろうからスピードを落としてくれる？」

辺りを警戒しながらセツナが告げるとバンブルビーは走行スピードを落とす。
　目印になるだろうタワーの姿を探していると不意に突然、夜の闇の中に人工的な淡い緑の光が視界の片隅に映り込む。

　「アレね」

良い目印だ。と言うかのようにチャーリーは呟くとタワーへと向かってハンドルを切った。