検問所に居た軍人達は凄まじい勢いで接近してくる黄色のビートルに気づくと全員が一斉に射撃体勢に入る。
　
　「ッ！？」

思わず目を閉じて顔を背けたセツナの耳に聞こえてきたのはフロントガラスが銃弾をはじき飛ばす音だった。
　次いで聞こえたのは木が砕けるような音、そして金属フェンスが吹き飛ばされる音だった。
　バンブルビーが走行する音だけが車内に満ちた事に気づいたセツナは恐る恐る目を開き前を見ると、そこには見慣れた街並みがあったことにホッと胸をなで下ろす。
　目の前にあるガラスには傷一つない事に気づくと、感心したかのような声で隣にいるチャーリーへと問いかけた。

　「チャーリー。いつの間にビーのフロントガラスを防弾仕様にしたの？」

言ってくれればあんなにも怯えなくて良かったのに。
　少しばかりムッとした顔をしてセツナが抗議をする中、チャーリーはハンドルを握ったままジッと前を見つめながら答えた。

　「してない」

　「え？」

　「防弾ガラスなんて私のバイト代じゃ高すぎて手が出るわけないでしょ？」

　「・・・えぇぇぇ」

一歩間違えれば自分達は銃弾によって倒れていたのだと理解したセツナの顔からサァッと血の気が引いていく。
　チャーリーの様子をよく見てみるとハンドルを握りしめる手には力が入っているらしく、白くなっていることからチャーリーも顔にこそ出てはいないがかなり動揺しているのだという事を証明していた。

　「ビー・・・アンタも弾丸が問題ないのなら教えなさいよ」

落ち着きを取り戻したらしいチャーリーがハンドルを叩けば、ラジオから機械音が聞こえてくる。
　ハンクの店でバンブルビーを見つけたときからずっと防弾ガラス仕様だったのだろうか？もしくは記憶を取り戻した時点で色々とバンブルビーの中で変化があったのだろうか？どちらにしろ、あの検問所を抜けるのはかなり危険な賭だったのだなぁとセツナは今になって理解をしていた。

　「とりあえずこうして命が無事で良かったじゃない？検問の突破も問題なくできたから、後はタワーへと向かってシャッター達が軍隊を呼ぶのを食い止めなきゃ」

　「そうね。時間はあまりないから急ぎましょう」

ホッと息を吐き出したチャーリーだったが背後から凄まじい勢いで自分達を追いかけてきた軍用ジープに気づくと顔を引きつらせる。
　追いかけてきたジープが何台なのか確認するため、セツナは助手席側にあるサイドミラーで後方を確認していたときだ、突然見慣れたワゴンがバンブルビーと軍用ジープの間に割り込んでくる。

　「え？アレってもしかして」

運転席と助手席に居る人物の顔に見覚えがある事にセツナが気づくのと同時に、ワゴンはスピードを上げてバンブルビーと併走し始めた。

　「チャーリーッ！！車を今すぐ路肩に停めなさい！！」

　「ママ！？」

何でここに来たのだ？と言うかのようにチャーリーが驚愕する声を上げる中、チャーリーの母サリーは娘の説得を尚も続けていたが、助手席に座っているセツナに気づくと眦をつり上げて怒りの形相へと変わった。

　「あー・・・あの顔はとってもマズイ」

母がそういった顔をするときは本気で怒っているときだとチャーリーは知っているらしく、口元を引きつらせながら呟いた時だった。

　「セツナまで巻き込んだの！？」

　「違います。どちらかと言えば自分から積極的に首を突っ込みました」

思わず訂正をしてしまったセツナの言葉を聞いたサリーの目がクワッと見開かれるのを見たセツナは、背筋に何かが伝い落ちていく感覚を感じ取り顔を引きつらせた。