鮮やかなカナリアイエローの塗装のいくつかが削られ、ツルリとしていた表面は殴られた事によって凹みや亀裂が痛々しいバンブルビーの姿を見たセツナはそっとバンブルビーの顔へと手を伸ばすと、その手に甘えるようにバンブルビーは顔を押しつけてきた。

　「ビー・・・立ち上がれる？」

声を潜めながらセツナはバンブルビーに話しかける。
　シャッターとドロップキックは何やら立体映像を見て今後の作戦について話し合っており、逃げるのならば今しかチャンスは無いとセツナは感じ取っていた。
　聞こえてくる２体のロボットの会話は『サイバトロン星に報告をする』、『軍隊をこちらに送る』、『ここでオプティマス・プライムを討ち取る』という何とも物騒なものだ。
　彼等の企みを阻止しなければならないと解っているのだが、バンブルビーとセツナだけではあまりにも無力で、コレは早急に軍に報告して対応して貰わなければならない。

　「今のうちにここから逃げなきゃ」

　『何をコソコソしている』

背後から聞こえた声にセツナが答えるよりも早くセツナは固い金属の塊によって吹き飛ばされてしまう。
　床の上を何度か転がったセツナは痛みですぐさま起き上がることが出来ず、倒れたままの状態で呻き声を上げることしか出来ない。

　『ドロップキック。あまり乱暴はするな・・・人間とはとても脆弱な生き物なのだから。アレが死んでしまえば私は例えお前だとしても容赦はしない』

　『・・・悪かったよ。アンタのペットを殺すつもりはなかった。ただ、生意気にも逃げようってしていたから軽く”おしおき”をしただけだ』

痛みで顔を歪めながらも必死に上半身を上げたセツナの耳に聞こえた会話から、自分はドロップキックによって軽く叩かれた事を悟る。
　殺されなかったのは恐らくシャッターがペットとして飼うつもりだから、という理由だと悟ったセツナはバンブルビーへと視線を向けると、そこには青い目を心配そうに揺らしているバンブルビーの姿があった為、大丈夫だと言うかのようにセツナが笑った時だ。

　『あぁ・・・Ｂ－１２７居たのか？すっかりお前の事を忘れてしまっていたよ』

　『俺は覚えていたぜ？』

シャッターの声にセツナは彼女へと視線を向けるとそこには赤い目を楽しそうに細めて嗤っていた。
　そんな嗤い方をするとき、絶対に良いことが起こらないことをセツナは悟る。
　顔色が変わったセツナに気づいたシャッターはチラリとドロップキックの方へと意味深な視線を向けると、何かを了承するかのようにゆっくりと頷く。
　それを見たドロップキックの腕が音を立てて変形していくのを見たセツナは、このままではバンブルビーもパウエルと同じく殺されてしまう事を理解した。

　「ビーッ！！」

逃げろと促すかのようにセツナは名前を呼ぶが、バンブルビーは動けないらしく機械音を鳴らしながらそっと顔を俯けてしまう。

　「（何とかしなきゃ）」

痛む身体を必死に動かしながらセツナは辺りを見渡していると、見覚えのある銃が大量にある事に気づく。
　それは日中、バンブルビーを捕獲する際に使用された電気銃だ。
　身体の構造が金属で出来ているバンブルビー達にとって、強い電流は彼等に対して命を奪う事は出来なくても足止め程度のダメージを与えられる。
　これしか方法は無いと判断したセツナはその銃を手に取ると銃口をドロップキックへと向けると大声で彼に話しかけた。

　「動かないでッ！！」

少しでもバンブルビーに対して攻撃する意思を見せるのならば引き金を引く、と言うかのような鋭い声でセツナが告げると、ドロップキックは赤い目を音も無く向けてくる。
　セツナの腕の中にある銃を見て怪訝な顔をしていたが、一瞬だけ赤い目が強く発光させる。

　『・・・そんな玩具で何が出来る？』

セツナの持っている銃など脅威ではないと言うかのように鼻で笑ったドロップキックは、銃へと変形した腕をバンブルビーへと向けた。