バンブルビーの命かセツナの人生か、天秤の計りに乗せられているのはあまりにも重たすぎるものだ。今はその比重は全く同じだが少しの切っ掛けがあれば、一瞬で傾いてしまうことくらいセツナは解っていた。
　だからこそ口を噤んで必死にセツナは考える。
　天秤が間違った方に傾かないように。

　『セツナ。私はあまり気が長い方ではない』

セツナの迷いも、考えている事も、何もかも見透かしているかのような口調でシャッターが答えを急かす。
　その言葉に対しセツナは「嘘をつけ」と言いたくなったが、下手に口を開いて失言をしてしまえばどちらかの未来が一瞬で消えてしまうのだと解っている為、必死に唇を噛んで言葉を押し殺す。

　『シャッター』

　『なんだ？』

　『人間をペットにしたいなんて随分と悪趣味だな。ペットが欲しいならドローンで事足りるだろ？』

こんな下等生物をペットとして飼うなんて信じられない。
　そう言うかのような口調でドロップキックが告げた言葉に対し、シャッターは楽しそうに笑う。

　『ドローンは主に対して絶対的な忠誠を持っているだろう？あぁいった従順さは好ましいが、私としては少し物足りないんだよ。どうせならペットとして少しばかり躾が必要なものの方が色々と楽しめる』

　『相変わらずアンタの趣味は俺には理解出来ねぇぜ』

理解不能だと言うかのように排気をしたドロップキックは、シャッターのペットとして目出度く目をつけられてしまった哀れな人間を一瞥するが、関心を抱くことはできなかった。
　けれどドロップキックも少しばかりセツナが下す決断とやらに興味が出てきたため、この下らない寸劇が終わるまでの間くらいは待ってやってもいいだろうと判断したらしく、バンブルビーへの攻撃を一時的に止めていた。

　『さてセツナ。答えは出たかな？』

どちらを選んだとしてもセツナの先にある未来は暗いモノでしかない。
　それをシャッターも解った上で選択をしろと言っていた。
　セツナはゆっくりとバンブルビーへと視線を向けると、自分を見捨てろと言うかのようにバンブルビーは頷く。
　何もかも諦めたかのようなバンブルビーの姿を見た瞬間、セツナは自分の中で天秤が傾いたのを感じ取った。

　「シャッター」

これから自分の下す決断はきっと沢山の人達を悲しませるのだろう。そして同じくらい彼等を落胆させることだと解った上でセツナは誰の未来を生かすべきか答えを出す。

　「ビーを助けて」

　『・・・それはつまり私のペットとして生きると？』

セツナ自身の明確な言葉で聞きたいのだと言うかのようにシャッターは答えを求めてくる。
　セツナがシャッターの目を見つめると、いつもよりも少しばかり強い光を放っているかのように感じられた。

　「私は貴方の、」

ペットとして生きる。
　そう言おうとしたセツナの言葉を邪魔するかのように突然、格納庫の中に凄まじい音量で音楽が鳴り響く。
　全員が何事かと思いその場所を見るとバンブルビーの姿があった。
　セツナとバンブルビーの視線が宙でかち合った瞬間、バンブルビーはシャッターに従っては駄目だと言うかのようにブンブンと首を左右に振る。

　『ッチ！！うるせぇぞ！！！！』

一番バンブルビーの側に居て爆音を聞かされたドロップキックは怒りで顔を歪めながら思い切りバンブルビーへと蹴りを放つ。
　その凄まじい衝撃により、天井から吊されていた鎖が外れバンブルビーの身体がコンクリートの床の上に倒れるが尚も鳴り続ける音楽に対し、ドロップキックは罵声を浴びせながらバンブルビーの肩を思い切り踏みつけたときだった。