逃げる、その言葉を聞いた瞬間、バーンズ少佐は邪魔をするかのように詰め寄ってきているセツナの父を腕で強引に押しのけると、バンブルビーへと指を差しながらそんな事は許さないと言うかのように告げた。

　「逃げるなッ！！」

その言葉を聞いた瞬間、バンブルビーはチャーリーとセツナを両手で抱きかかえるとすぐ近くの崖から身を乗り出した。
　ふわり、とした浮遊感が全身を包み込んだ直後、身体が重力に引っ張られるかのような感覚を感じ取ったセツナは声にならない悲鳴を上げることしか出来ない。
　グルグルと凄まじい速度で回る視界。
　耳元で風が通り抜けていく音、顔に容赦なく叩付けられる砂塵、どれくらいの間それに耐えていたのかは解らない。
　永遠とも思える時間が終わった直後、車へと変形したバンブルビーの中にチャーリーと共にセツナは居た。

　「セツナ？大丈夫！？」

絶叫系の乗り物を苦手としているセツナはその言葉にすぐに応えられない。
　呆然とした顔をしたまま前を見つめる事しか出来ずにいた時、こちらへと接近してくる戦闘機とヘリコプターの姿に気づくと、アレは何だと言うかのように無言のまま前方を指さす。
　セツナが指さしているものを見た瞬間、チャーリーはブレーキを力一杯踏んでバンブルビーを強制的に停車させた。

　「アレは・・・」

戦闘機とヘリコプターは地面に近づいたかと思えばその姿を車へと変えた。
　土煙を上げて近づいてきた二台の車、深紅と濃紺の車はすぐさまロボットへとその姿を変えると勢いを殺さないまま接近してくる。

　「ねぇ、アレは味方だよね？」

そうだと言ってくれ。
　縋るようなチャーリーの言葉を否定するかのように、深紅のロボットが腕をバンブルビーへと向けてきたのだが、その腕は普通の腕ではなくまるで銃のようなモノが装着されいた。

　「ビーッ！！避けて！！！」

アレはとてもマズイモノだ、咄嗟にそう判断したのと同時に叫んだセツナの声に応えるかのようにバンブルビーはロボットへと変形すると、チャーリーとセツナを守るかのようにギュッと２人の身体を抱きしめた。

　「駄目ッ！逃げるのッ！！」

あの銃の攻撃から逃れてくれ、そう懇願するかのようにセツナは告げるがバンブルビーはそれに従わない。
　再度、説得しようとした直後、凄まじい衝撃と光がセツナを襲った。
　勢いよく身体が背中から地面に叩付けられ、その痛みにセツナは一瞬意識を飛ばす。
　ズキズキと痛む背中を労りながら身体を起こしたセツナは、何が起こったかすぐに理解することが出来なかったが、少し離れているところに倒れているチャーリーの姿を見つけると彼女へと駆け寄る。

　「チャーリー！大丈夫？」

幸いな事にチャーリーも酷い怪我をしているのではなく、身体を少しぶつけた程度で済んでいた。
　これもきっとバンブルビーが守ってくれたからだ、そう思ったセツナはバンブルビーがどうなったのか確認するため黄色のロボットの姿を探したときだった。

　『Ｂ－１２７！！この・・・裏切り者の腰抜けがッ！！！』

苛立ちを隠せない。
　そう言うかのような声には聞き覚えがあった。
　何度も受話器越しに聞いた声、まさかと思いながら声のした方へと視線を向けたセツナの目に飛び込んできたのは、濃紺のロボットによって蹴り飛ばされるバンブルビーの姿だ。

　『何故反撃しないッ！？』

理解出来ない行動だ、と言うかのように濃紺のロボットはバンブルビーへと近づき更に暴行を加えようと足を上げる。

　「やめてよッ！！」

セツナのすぐ側を走り抜けていったチャーリーが濃紺のロボットからバンブルビーを守るかのように立ちふさがった。