街中を走っている間は誰一人として口を開くことはしなかったが、住宅地を抜けて山道へと続く道を走り始める頃になると、落ち着きを取り戻したらしいチャーリーがポツポツと何があったのか話し始めた。
　夫を失った母が空いてしまった心の隙間を埋めるために誰かを好きになり、幸せな家庭をもう一度作り直そうと努力しているのに、その輪に決して加わらない娘に対してずっと抱いていた悲しみと怒りの感情。

　「ママはロンをパパの代わりにしてる。オーティスもそう・・・。でもね、私には無理。私にとってのパパは１人だけだもの」

誰も代りにはなれないのだ。
　言葉にしなくてもチャーリーの気持ちが伝わってきた。
　チャーリーと幼なじみという事もあり、良く彼女の家に遊びに行っていたセツナは仲の良い父と娘の姿を知っている。

　「でももう良いの。だって後少ししたらあの家をでれるから。そうしたらきっとママはロンとオーティスと幸せになれる」

　「・・・その中にチャーリーが居なくても良いの？」

　「ちょっと寂しいけど仕方ないよ」

苦笑を浮かべたチャーリーは周りに走っている車がないことを確認するとハンドルに額を押しつける。
　きっと先程の会話は母子にとって決定的な決別になってしまったのだとセツナは理解すると、今のチャーリーに何が出来るのだろうか？と考えていた時だ。

　「これは僕の格言なんだけどさ「暗闇の向こうには星空が広がっている」っていうのがあるんだ」

その言葉にチャーリーはメモへと視線を向けると、メモはぎこちなく微笑みながら頷いた。

　「例えば暗闇を歩いているとしても、それを乗り越えた先には素敵な光景が広がっている。チャーリーは今、暗闇の中に居るけど・・・きっといつか凄く素敵な未来が君を待ってる」

だから大丈夫だよ。
　そう告げたメモの言葉を聞いたチャーリーの目に涙が浮かぶ。

　「メモ」

　「なに？」

　「ありがとう」

少し救われたと言うかのようにチャーリーは微笑む。

　「元気になったなら良かった」

いつものチャーリーに少しだけ戻ったことにメモはホッとしたように胸をなで下ろすと、自分がチャーリーの力になれたことが嬉しかったらしく、少しだけ頬を赤くしていた。
　その事に気づいたセツナがジッと意味深な視線を向けていると、コホンと咳払いをすると照れ隠しのように頭を掻く。

　「実は今のはダイエットプログラムの格言の一つなんだ」

まさかの発言にチャーリーとセツナは一瞬何を言われたのか解らず、キョトンとした顔をすることしか出来なかった。
　その反応を見たメモはまさか自分がダイエットしているのだと勘違いしたらしく、ひどく慌てた様子で口を開く。
　
　「僕がダイエットしているわけじゃないからね！？姉さんがしてて、ビデオを偶然見て、良い言葉だなぁって思ったから覚えてただけで・・・ッ！！」

あまりに必死なそんなメモの姿にチャーリーとセツナはプッと吹き出すと声を上げて笑い出す。
　車内に響く２人の笑い声に対し、メモは参ったなぁと思いながら少しムッとした顔をして窓の外へと顔を向ける。

　「ごめんごめん。解ってるから」

目尻に浮かぶ涙を拭いながらチャーリーはバンバンとメモの肩を叩いた時だった。
　大きな曲がり角を曲がった瞬間、行く手を遮るかのように車が止っていることに気づいたチャーリーは慌ててハンドルを横に切るのと同時にブレーキを踏む。
　急停止にセツナは身体が前に引っ張られた為、慌てて前の座席のシートを掴み前に飛び出さないように堪えた。
　車が止ったのを確認したセツナが誰が道を塞いでいるのだと思い前を見たとき、そこに止っているのが軍用車だったことに言葉を失う。