玄関を見つめるチャーリーの後ろ姿には悲壮感があり、今から行う話し合いできっと母との間に埋めることの出来ない溝が出来てしまうことを確信していた。
　そんな覚悟を抱くチャーリーを１人にさせるわけにいかない、そう思ったセツナは自分もこの場に残り、彼女と共にサリーへと弁解すべきだと思った時だ。

　「行こう！！」

セツナの腕を掴んだメモが半ば強引にガレージへとセツナを連れて行く。
　まさかメモが自分を擁護するかのように動いたことに対し、チャーリーは驚いたように目を開いていたが、感謝すると言うかのように唇に笑みを浮かべると小さく頷いた。

　「メモッ！離してよ！！！」

掴まれた腕を上下左右に乱暴に振ってふりほどこうとするが、メモは決してセツナの腕を放さない。

　「セツナが居たら駄目だ。これはチャーリーが決めた事なんだから。あの場に居たらお前も悪者になるぞ？」

　「それでも構わない！！」

　「チャーリーがそれを望んでいないだろッ！！！」

今まで聞いたことがない程の強い声、怒鳴り声に近い声でメモから言葉を返された事に驚いたセツナは言葉に詰まる。
　ガレージへと到着したメモはバンブルビーのドアを開けると後部座席にセツナを押し込むと、自身は運転席へと座ってバンブルビーを移動させた。
　
　「悪い」

小さな声で返された謝罪の言葉にセツナは無言のまま首を振って答える。

　「謝るのは私の方だから」

本当はあの言葉を口にしたチャーリーの気持ちは解っていた。
　それを承知の上で残ると告げた自分の発言が、ただの感情に支配されたものでしかないことも、何の意味も無い行動だったことも少し冷静になった今になってセツナは理解すると顔を両手で覆う。
　
　「ごめん。ちょっと感情的になってた」

シャッターからの電話があってから心が乱れてしまっている。
　落ち着かなければならない。
　ここから先は追われることとなるのだから、少しのミスがバンブルビーを窮地へと追いやってしまうとセツナが思っていたときだ。

　『”君を泣かせるヤツは誰だ？”』

聞こえてきた音楽に顔を覆っていた手を離したセツナがカーラジオを見た瞬間、運転席に居たメモの胸元めがけて勢いよくハンドルが押しつけられる。

　「ちょっ！？痛いって！！」

バシバシとハンドルを叩きながら自分を解放するようにメモは叫ぶが、バンブルビーは離すようなことはしない。むしろ反対にグリグリと押しつけるかのようにハンドルを動かしていた時だ。
　玄関が勢いよく開いたかと思えばそこからチャーリーが走ってくる。
　こちらへと走ってくるチャーリーの目には涙が浮かんでおり、走っている振動で溢れ出たらしい涙が彼女の頬を伝っていた。

　「ビー！ハンドルを離して。チャーリーが乗るから」

セツナがそう告げるのと同時にメモを苦しめていたハンドルは定位置へと戻り、運転席に座っているメモを邪魔だと言うかのように運転席が上下に動く。
　押さえつけられていた胸元をさすりながらメモは助手席へと移動した直後、ドアが開いてチャーリーが乗り込んできた。
　右手でハンドルを握ったチャーリーは左手で濡れた頬を乱暴に拭いながらバンブルビーを発進させる。

　「ごめん。今は何も聞かないでくれると助かる」

チャーリーは掠れた声でメモとセツナへと告げると行き先を告げないままバンブルビーを走らせ続けた。