受話器を押さえつける手は恐怖からか震えていた。
　カタカタと震える手を反対の手で押さえつけるかのようにして、セツナは必死に震えを止めようとするが中々止らない。
　耳の奥で未だにシャッターの声が残っており、ジワジワと身体の中から自分が苛まれていく感覚にセツナは耐えるかのように目を伏せ、唇を噛みしめた時だ。

　「セツナ？電話の人に何か変なこと聞かれたの？」

震えるセツナの手にそっと誰かの手が重ねられる。
　伏せていた目をそっと開けて、自分の手に触れている人物を見るとそこには心配そうに自分を見つめるチャーリーの姿があった。
　彼女の顔をジッと見つめていると恐怖が薄れ、少しずつだが身体の中から嫌な感覚が消えてくのをセツナは感じ取る。

　「チャーリー」

　「なに？」

　「ビーが見つかった。逃げなきゃ駄目だ」

言えた言葉はそれだけだったが、チャーリーにはセツナが伝えたい危険性が十分に伝わった。

　「今の電話の相手がビーの敵って事？」

　「うん。なんらかの方法でビーがここに居る事を知ったみたいで、こっちに来るって言っていた」

自分達に与えられた残り時間がどれくらいあるのかは解らないが、間違い無くここから無事に逃げられるような余裕のある時間はないはずだ。
　
　「だったらすぐにでもここから逃げましょう！！」

善は急げと言うかのようにガレージへと向かおうとしたチャーリーだったが、その彼女に対して待ったの行動をかけたのはメモだ。

　「待ってくれよ。こんな状態でチャーリーが姿を消してみろよ？確実に事件性があるって判断されて、警察沙汰になるだろう？」

最もなメモの発言に対してチャーリーは室内を見る。　
　今すぐバンブルビーをどこかへと隠さなければならないのだが、家の中をこんな状態にして出て行く事は出来ない。
　帰宅したサリーは家の中の様子と、チャーリーがいないと解れば娘が何らかの事件に巻き込まれたか、もしくは誘拐されたと判断してもおかしくはない。

　「書き置きを残しておく」

それならば大丈夫だと判断したチャーリーは自室に向かってメモ用紙とペンを取りに行こうとしたときだった。
外から聞き覚えのあるエンジン音が聞こえてきたことに３人はバッと一斉に玄関へと視線を向ける。

　「サリーおばさん帰って来ちゃったの！？」

予想よりも早い帰宅にセツナが焦りを抱く。
　この室内を見たサリーは確実に３人を逃がしはしない。
　サリーへの言い訳とそしてバンブルビーを連れて逃げるための説得をしている間に、シャッターはここに来てしまう。
　そうなれば確実にバンブルビーは捕まるだろうと思ったセツナは必死に何か良い考えはないかと思っていたときだ。

　「メモを連れてここから離れて」

セツナの肩をチャーリーは掴むと鬼気迫る顔をして玄関を睨み付けながら告げる。

　「ビーに乗ってガレージからこっそり逃げて」

　「だけど・・・チャーリーはどうするの？」

　「大丈夫。私もすぐに合流するから玄関でビーに乗って待っててくれる？」

早く行け、そう言うかのようにチャーリーがセツナの肩をガレージの方へと軽く押す。