まるで家の中で爆発があったかのような悲惨な状態にセツナはそっとチャーリーの顔を盗み見る。
　怒りのあまり顔面蒼白になっているチャーリーは無表情のままバンブルビーを見つめているのだが、その目だけは冷え切っていて、今回のイタズラに関してはいつものように許す訳にはいかないとチャーリーの目が伝えていた。

　「大人しくしろって言ったのが解らなかったのッ・・・！！こんな、こんな事をして、見つかったらどうするのよ！！私は大人しく待っていろって言ったよね！？」

空気がビリビリと震える程の声音でチャーリーはバンブルビーに対し、室内を手で示すとバンブルビーは慌てて車の姿になる。

　「・・・あぁ、そう？穴があったら入りたいッてわけ？」

こんな大騒動を起こしておいて何も感じないのか？と言うかのようにチャーリーは告げると顔を両手で覆うと深々とため息を吐き出す。
　
　「チャーリー」

　「解ってる。うん。解ってるの。私が悪かったんだって。ビーの事を思えば連れて行くべきだった」

まるで自分の決断が間違っていたからこそ、今の状況が起きてしまったと言うかのような口調でチャーリーは呟くと、そっとバンブルビーのボンネットに触れる。
　改めてセツナは室内の様子を確認する。
　ＴＶは壁から引き倒され、ソファは何故か真ん中からへし折れていた。洗濯機は何故かキッチンの中央に引き出されており、他にも様々な家電が破壊された状態で床の上に投げ出されていた。
　これだけひどい状況だというのに火災が起きなかったことだけが不幸中の幸いだ。
　今なお意気消沈しているチャーリーへと近づいたセツナは彼女の肩を叩く。

　「とりあえず片付けよっか？」

サリーおばさんが帰ってくる前にある程度の状態まで戻しておく必要がある。
　壊れてしまった家電やら、家具やらはどうすることもできないがある程度の原状回復は必要だと思ったセツナがそう提案するとチャーリーはゆっくりと頷く。

　「ビーはガレージに移動しててくれる？」

ここに居てもバンブルビーに出来る事は何も無い為、ガレージで待機していた方が良いだろうと判断したセツナが告げるとバンブルビーはゆっくりとロボットへと変形をする。
　いつものように完全なロボットになろうとしたが、途中で天井から吊されているシーリングファンに盛大に頭をぶつけてしまう。
　音を立てて床に落下したシーリングファンを３人は何とも言えない顔をして見つめる中、ため息をひとつこぼしたメモがバンブルビーの足を軽く叩く。

　「変身はその辺にしておこう。これ以上、家を破壊したくはないだろ？」

足の部分が未だに車の状態であるバンブルビーは申し訳ないと言うかのようにしょぼん、と肩を落とす。
　メモに促される形でガレージへと移動したバンブルビーだったが、背中に着いているドアの部分が壁にぶつかり掛けられていた写真立てがガシャンッと音を立てて落下した。
　慌ててドアを収納したバンブルビーはコレで良しッ！と言うかのようにチャーリーに対して親指を立てて去って行く。

　「アレ、反省してないわ」

自分のした事の意味を何一つ理解していないと悟ったらしいチャーリーが心底疲れたと言うかのような口調で呟いた声が、荒れ果てた室内で虚しく響いた。

　「ママが帰ってくるまでに何とかしなきゃ」

ただでさえチャーリーは母親との関係が上手くいってはいない。
　恐らくこの室内の状態を見たら絶対にチャーリーが母への反抗心から暴れた、と判断されるだろう。
　近くに落ちているコーヒーサーバーを手に取ったチャーリーは、どこから手を着けようかと途方に暮れた目をして室内を見渡す。
　
　「私も手伝うよ」

　「ありがとう」

　「作業しながらで良いんだけど、ビーの事で話したいことがあるの」

昨夜のことを思い出したセツナが強ばった声でそう告げると、チャーリーはいつもとは違う雰囲気のセツナに気づくとそっと近づいてくる。
　無言のまま背中を撫でてくれるチャーリーに対し、セツナはぎこちなく微笑みかけることしか出来なかった。