そのジェスチャーでメモはセツナが家の人に内緒で動いているのだと悟ると、持っていた自転車を地面に倒すと周りの目を気にしながらそっと近づいてきた。
　
　「メモ！大変な事になったの」

　「チャーリーの家か？知ってる。バイト先に連絡をしたから、すぐに戻ってくるだろうけど・・・」

目元会話をしているその間も絶えず聞こえてくる何かが壊れる音と、爆発音にセツナはこれはとてもまずい事をバンブルビーはしていると判断する。

　「バイトに行くのに乗っていかなかったの？」

　「いやーそれがさ、昨夜色々とあって」

　「・・・解った。うん。具体的に何をしたのか聞きたいし、そしてそれと同じくらい言いたいことはあるけど今は黙る。メモ、その辺にはしごがあるから持ってきてくれる？」

とりあえず一度地面に降り、母の目の届く場所から逃れてから詳しい話を聞きたいとセツナが訴えるとメモは庭の片隅に置かれているはしごを手に取り、それを屋根へと近づける。
　ゆっくりとはしごを伝って地面に降りたセツナはホッと胸をなで下ろす。

　「ありがとう。メモが出てきてくれて助かったよ」

　「・・・俺も出かけようかなって思って外出てみたら、なんか凄い音がしてきただろ？これは拙いと思ってセツナの助力を得ようと思って来てみたんだ。そしたら君は屋根の上に居た。まさかの脱走劇に驚いたよ」

そういった事とは無縁そうな人間なのに、そう言って笑ったメモの言葉にセツナはそうせざるを得ない事情になってしまった事を悔いるかのように視線を落とし、込み上げてくる感情を抑えるかのように拳を握った。

　「セツナ？」

　「父さんはビーの敵とすでに接触してる。ビーをどこかに逃がさないと」

　「逃がすって言っても・・・・」

どこに逃がすのだ？
　困惑したメモの言葉にセツナもどこに逃がせば良いのだろうか？そう思いながら、バンブルビーが当面の間姿を隠す事が出来そうな場所を考える。
　最終的に一番良い場所は最初にバンブルビーと出会ったハンクの店だ。　
　あの店ならばきっと誤魔化しが効くだろうし、ハンクもきっと口裏を合わせてくれると判断した時、聞き慣れたバイクの音が聞こえたため道路へと視線を向けると猛スピードでこちらへと接近してきている見慣れたバイクの姿があった。

　「チャーリーッ！！」

バイクへと近づきながらセツナは大きく手を振ると、チャーリーはセツナの前でバイクを止める。

　「セツナ」

　「その・・・・音がずっと止っていないの」

何かしらの破壊音、もしくは爆発音、そのどちらかが、もしくは両方が絶えず聞こえているのだとセツナが告げた直後、大きな音がチャーリーの家の方から聞こえてきた為、３人は言葉を失ってチャーリーの家を見つめる。

　「あれマズイよね？絶対にマズイよね！？」

引きつった顔をしてメモが声を出した瞬間、硬直していたチャーリーはバイクを路肩に止めると全力で自宅へと向かって走っていく。
　少し遅れる形でセツナも追いかける。
　玄関のドアを開けたチャーリーは室内の様子を見て言葉を失ってその場に立ち尽くす。
　セツナは恐る恐る室内の状態を確認してみたのだが、あまりにも悲惨な状態にこれはもうどんなに頑張っても元に戻すことは不可能だと悟る。

　「バンブルビー」

怒りで声を震わせながらチャーリーはこの事態を引き起こしただろう人物の名を呼ぶ。

　「どこなの、バンブルビーッ！！！」

家の中に響くかのような大きな声でチャーリーが名前を呼んでから数秒後、カウンターの影から恐る恐る金属の顔が姿を現した。
　本人も悪い事をしてしまったという自覚があるのか、そっとカウンターから出てくるとチャーリーの前にしょぼんとした様子で立った。