どうやってメモと連絡を取るかセツナは考えている内に、気づけば眠ってしまっていたらしく、目を覚ましたときには既に周りは明るくなってしまっていた。
　特にコレと言った考えが思い浮かばない内に、朝になってしまった事を心から悔いながらセツナは窓辺へと近づきチャーリーの家を見る。
　ガレージのドアはきつく閉じられており、中にバンブルビーが居るのか居ないのか解らない状態だ。

　「バイトに行くのに乗っていったりしていないよね？」

昨夜、電話で話をしたシャッターがバンブルビーの事をどこまで知っているのかは解らないが、あのボロボロのビークルに擬態していることを気づかれなければ、きっとバンブルビーは大丈夫だとセツナは言い聞かせる。

　「チャーリーはバイトが終わってから話そうって言っていたけど」

昨日の母の様子から絶対に家の外には出す気は無いことは明らかだ。仮に外出する必要があるのならば母が同行してくる。

　「メモに伝言を頼むにしたって、どうやってメモにこの事を伝えたら良いの？」

チャーリーへの橋渡し役としてメモに動いて貰うにしても、彼にどうやって事情を説明したら良いのか解らない。
　電話である程度の事を伏せつつ、昨夜の電話の内容を話すことしか選択肢はないのだが、バンブルビーを探しているシャッターは間違い無くセツナが誰かに電話を掛ければそれを盗聴する。
　そうなってしまえばメモも危険に晒され、そして結果的にバンブルビーの居場所が分かってしまうため、それだけは絶対にしてはならない方法だ。

　「どうしたらいい」

良い考えが浮かばず、悔しげに顔を歪めながらセツナは唇を噛みしめた時だった。
　どこからか破壊音のような音が聞こえてきた。
　なんだと思いながら窓を開けて外の様子を窺ってみると、音はチャーリーの家から聞こえてきているようだった。

　「嘘でしょ？」

誰も居ない家にバンブルビーを置いていったのか？
　呆然とした声でそう呟いたセツナは事態は本当に最悪な方へと突き進みすぎていることを悟る。
　コレはのんびりに考えては居られない。
　今すぐバンブルビーの元に向かい、大人しくしているように説得をして、チャーリーのバイト先に向かって合流すべきだとセツナは決断を下す。

　「こんな時、自分の部屋が二階にあることを恨むわ」

窓の下に見える芝生をあまり見ないようにしながらセツナはすぐ側にあった雨樋に気づくと、そっとソレに向かって手を伸ばす。
　触れた雨樋が外れないか確認するかのように、何度かグッ、グッと引っ張ってみるが外れる様子がない事にとりあえず安心する。

　「・・・よしッ！」

フッと短く息を吐いたセツナは窓から身を乗り出すと、雨樋を手で掴むと恐る恐る足を出す。
　足を伸ばした先にあるのは一階の出窓部分の屋根だ。
　音を立てないようにそっと右足を降ろしたセツナは、次に左足を屋根の上に降ろし始める。

　「大丈夫。大丈夫。ゆっくり動けば大丈夫」

ドクドクと早く脈打つ心臓を落ち着かせるかのようにセツナは独り言を口にしながら、屋根の上に両足で立つことに成功した。
　第一関門を突破したセツナは次の行動に移る。
　屋根の端に近づくとその場にしゃがみ込み高さを確認しつつ、どうやって居りようかと考えていた時だ。

　「セツナ？なにしてるんだ？」

聞こえてきた声に視線を向けたセツナはそこに居た人物を、メモを見て顔を輝かせたが、ハッとした顔をすると自分の唇に人差し指を添えると静かにするようにと訴える。