チャーリーが休日にバイトをしているのは父との思い出の来るまであるコルベットの修理のためである事をセツナは知っている。
　ハンクの廃品屋で使えそうなパーツを回収してはそれを購入し、時間を見つけては壊れた部品との入れ替えやらを行っているのだ。
　セツナも修理の手伝いをしているので、気づけば車に関して色々と詳しくなってしまっていた。

　「我儘コルベットちゃんは直りそう？」

　「全然駄目・・・やっぱりパパがいなきゃ無理だよ。私一人じゃ直せない」

膝を抱えたチャーリーが弱々しい声で言葉を返してくる。
　彼女が今交通手段として使用しているのは今にも壊れそうなバイクだ。
　雨の日にバイトに行くとなれば濡れ鼠状態になってしまうのと、家のことを手伝うためにもチャーリーが車を欲していることをセツナは知っている。

　「セツナは車を買わないの？おじさんに言えばすぐに買ってくれるよね？」

　「まぁ確かに父さんは私が頼めば余程のことが無い限りは欲しいものを買ってくれるけどさ・・・今は車のお願いに関しては止めておこうかなぁって思ってね」

セツナの父は仕事が忙しいらしく家には居ない。
　それ故か一人娘であるセツナとの交流が出来ない事に関して色々と思い詰めているらしく、セツナのお願いに関しては基本的に受け入れてくれる。

　「凄いよね、おじさんって・・・幼なじみだからって私やオーティスの誕生日にも色々とプレゼントしてくれるしさ。仕事って何してるの？」

　「何かの研究をしている事くらいしか解らないんだよねぇ」

　「嘘でしょ？」

　「ホント。母さんも詳しいことは知らないみたいだし」

自分の父が何の研究をしているのかセツナは知らないまま過ごしてきたのだが、最近は特に忙しいらしく母がぼやいていたことを思い出す。

　「車が欲しいって言っていたアンタにしてはおじさんに頼まないなんて珍しいね」

　「ちょっと願掛け断ちでもしようかと思ってさ」

　「願掛け断ち？」
　
　「うん。あー願掛け断ちってのは母さんの国に伝わっている民間信仰だかの一つでね、神様にお願いした事が叶うまでの間は他のお願い事とか好きなこととか断って一番叶えたい願い事が叶うようにしましょうっていうやつみたい。まぁ詳しいことは私も知らないんだけどね」

　「ふぅーん・・・そうなんだ。アンタの叶えたい願いってのはチュロス売りの男の子との恋愛成就ってやつ？」

　「違いますぅー。私のお願いはどこかのコルベットが無事に動きますようにっていうお願いでーす」

茶目っ気のある笑みを浮かべながらセツナは答えると、チャーリーは信じられないと言うかのように大きく目を開く。
　これ以上ないと言う程に見開かれたその瞳に向かってセツナが微笑みかければ、チャーリーはムッとした顔をしてそっぽを向いたきり何も言葉を発しない。

　「馬鹿じゃないの？」

　「そうかな？」

　「えぇ、そうよ」

　「そっか。そうかもしれないね」

セツナは一度もチャーリーを見ずに言葉を交わす。
　この強情な幼なじみがどんな顔をしているのか、なんてことくらい顔を合わせなくても解っていたからだ。

　「・・・ありがとう」

風に消えそうな程小さな声であったがそれは確かにセツナの耳に届いた。