通話を終えたセツナは受話器を置くと必死に考える。
　どうしたら父を助けられる、否、助けるべきは父だけではないのだ。
　シャッターはセツナの周りの者達に償って貰うと言っていた。命の危険が迫っているのは良心だけではなく、セツナの友人関係にも被害が及ぶ可能性が高い。

　「（チャーリーッ！！）」

幼なじみであるチャーリーとセツナが姉妹のような関係である事をシャッターが知ったのならば、間違い無くチャーリーの命は危険に晒されてしまう。
　バンブルビーがチャーリーの家に居る事もシャッターに知られてしまえば、間違い無くバンブルビーは殺される。

　「（今すぐ電話をすべき？いいえ、それだけは絶対に駄目。きっとシャッターに聞かれてしまう）」

混乱する頭の中でセツナの残された冷静な部分が下した決断は間違いがない。
　恐らくチャーリーはまだティナに対するリベンジから帰ってきてはいない為、今ここでチャーリーの家に電話をしたとしてもなんの意味も成さないと悟ったセツナはゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

　「（チャーリーへの直の連絡は駄目だ）」

下手なことを電話で言ってしまえば盗聴され、チャーリーとバンブルビーの身か危険に晒されるとセツナは判断すると、どうやってチャーリーに対してバンブルビーを狙っている者達がいるのだと伝えるべきだろうか？と考えていた時、不意にメモの顔が脳裏に浮かぶ。

　「彼を通してなら」

連絡は可能だ。
　チャーリーのバイト先への電話番号も覚えているメモにならば、チャーリーへの伝言も可能だと判断したセツナが１人でうんうんと頷いていたときだ。
　
　「セツナ。貴方、一体何をしているの？」
　
強ばった声で名を呼ばれたセツナが視線を向けると、そこには母の姿があった。
　母は父から事前に色々と聞いているらしく、娘が置かれている状況をある程度は理解しているようだった。だからと言って母が味方かと問われれば答えは否だ。
　母はセツナが危険に遭わないように願っているらしく、今夜はもうどこにも行かせないと言うかのように玄関の前に立つ。

　「当分の間は外出禁止よ」

　「え？なんで？」

　「解っているでしょう？」

本当ならばヒステリックに声を荒げ、娘を問いただしたいのだろうがなけなしの理性でソレを押しとどめながら母は娘に対して外出禁止令を出す。

　「セツナ。私にはお父さんと貴方が何をしようとしているのかは解らない。でもね、ソレが良くない結果に繋がっていることは解っているわ。だから貴方は当分の間は家出大人しくていて」

　「母さんッ！！」

　「言うことを聞きなさい！！」

悲痛な声音で叫ぶように言われた母の声にセツナは顔を歪ませた後、その場から逃げ出すかのように走り出すと自分の部屋へと逃げる。
　階下では母が自分を呼ぶ声がしていたが、それもすぐに消えてしまう。
　
　「なんとかして」

チャーリーとメモと連絡を取らなければならない。
　バンブルビーの敵が既に地球に来ていて、バンブルビーを探すために人間の力を得ているのならば悠長にしてはいられないのだ。

　「大丈夫」

脳裏に浮かぶのは愛らしい青い目をしたロボットの姿。
　バンブルビーが犯罪者とはセツナには想像出来ない。

　「私が絶対に守るよ」

だからどうか、大切な幼なじみの側に居て欲しい。
　そう願いながらセツナは祈るような気持ちで静かに目を伏せた。