セツナの自宅の前にバンブルビーを止めたチャーリーは何か言いたげな顔をしながら、セツナを見つめるだけで声を発することはしない。
　今の気持ちを口にすることは、要望を伝えることは、自分の我儘でしか無いと解っているのだが、どうしても諦めきれないときにチャーリーがする癖の一つだ。

　「（言いたいことがあるなら言えば良いのになぁ。そんなことで私がチャーリーを嫌うわけないのに）」

チャーリーが何を言いたいのか何となく解っているセツナは困ったように眦を下げると、チャーリーの頬にそっと手を添えると微笑む。

　「今夜の楽しい復讐劇に付き合えなくてごめんね」

セツナがそう告げるとチャーリーは自分の思考が読まれたことに対して驚いたように目を見開いた後、縋るような目をしてセツナを見つめながら静かな声で問いかける。

　「ねぇ。今夜のこと、本当に駄目？」

　「・・・なんとなくだけど、今夜の話はちゃんと聞かなきゃならない気がするの」

改まって話をしたいと父が言ってきたのは今回が初めての事で、きっとそれはバンブルビーに関する事だろうなとセツナは薄々感じていた。
　今日ここで話を聞いておかなければ後々、後悔しそうな事態が待っている気がしてならない。
　それが後にただの杞憂だったのならば良いが、もしも、あの時にあぁしていればという後悔だけはしたくはない。

　「（ビーと出会ってからチャーリーは昔みたいに笑えるようになった）」

誰よりも父を喪ったことを悲しみ、そしてその悲しみを癒す術を知らぬまま、死んだような目をして生きていた大切な幼なじみ。
　セツナはチャーリーを助けたいと思ったのになにもできず、ただその場に寄り添うことしか出来なかったが、バンブルビーとの出会いがチャーリーを変えた。
　だからこそチャーリーとバンブルビーが離れるようなことにならないよう、出来る事はやっておかなければならない。
　それがきっと自分の役割なのだ、そう思ったセツナは何かを決意するかのようにそっと手を握ったときだ。

　「セツナ？」

何かに追い詰められたかのような、妙に張り詰めた雰囲気のまま黙り込んでしまったセツナの名をチャーリーは呼ぶ。
　弱々しいその声音にセツナは引き寄せられるかのようにチャーリーの顔を見ると、心配そうに瞳を揺らしている幼なじみの姿があった。

　「チャーリー。私は謝らなきゃならない事があるの」

突然すぎる謝罪の言葉にチャーリーは不思議そうに小首を傾げる。

　「私ね、ビーと出会ってから少ししてから父さんに電話で「変形する車が欲しい」って冗談っぽく聞いてみたの。勿論、ビーの存在は伏せてだけど」

今にして思えばあまりにも軽率すぎる行動だった。
　悔いるかのようにきつく目をつぶったセツナは頭を下げる。

　「ごめんなさい」

　「・・・いつかはバレてたよ」

セツナが言おうとも、言わなくても、バンブルビーという存在が第三者に露見することはまるで必然のことだと言うかのような口調でチャーリーは告げる。

　「おじさん、変形する車って言葉に対してどんな反応をしていた？」

　「はっきりと知っているとは言わなかったけど、電話越しに雰囲気が可笑しくなったのは解った。多分・・・父さんはビーとよく似た存在を知っているんだと思う」
　
　「既にビーの仲間と知り合ってる可能性もあるって事だよね？」

セツナが今日までそれを秘密にしていたのは、秘密の共有者であるチャーリーには内緒でバンブルビーの事で父に探りを入れたことを隠していた事による罪悪感からだとチャーリーは判断すると、そんな問題は些細な事ではないかと言うかのような明るい口調で告げる。

　「ビーの仲間が居るかもしれないよ！」

弾んだ声でカーラジオへと話しかけたチャーリーに対し、セツナは否定の言葉を返すことが出来なかった。