至極当たり前のことのようにセツナが冷静な声で告げれば、ティナ達は全員が言葉に詰まり何も反論しなくなる。

　「チャーリーは親の力を借りることなく全部自分で頑張ってる。この車だってそうだよ。動かなかったこの車を整備して、走るようにしたのはチャーリーの力。私達みたいに親のお金とか手助けを借りることなく自分の力だけで目的を達成した。その事に対して、敬意を抱くことこそあっても侮辱する理由にはならない」

気に入らない。
　たったそれだけの理由でここまで他人を踏みつけては良い訳でないだろう？
　そう思いながらセツナは唇を動かす。
　今までどれだけチャーリーが苦しんできたのか、苦労をしてきたのか、何も知らないくせにチャーリーを馬鹿にする発言しかしないティナ達に対してセツナは落胆を通り越した感情を抱く。
　コイツ等は理解出来ない、という感情だ。
　けれどそう思うのと同時にセツナは自分の言っている言葉で自分の心がズキリと痛むのを感じ取っていた。

　「（私もティナと同じだ・・・）」

要望を出せばソレが分相応なものであればセツナの親は購入をしてくれた。
　それ以外にも娘が苦労をしないように両親が色々としていたことをセツナは知っている。
　結局自分もティナ達と同じなのだ。
　そう思ったセツナは自嘲の笑みを浮かべながらティナへと向かい話しかける。

　「ティナ」

　「・・・なに？」

　「ごめん。言い過ぎた」

これは完全な八つ当たりでしか無い。
　客観的にセツナがティナへと告げた事はティナに対しては屈辱でしかないことだとセツナは感じ取っていた。
　冷静さを取り戻したセツナが謝罪の言葉を告げればティナは今までのような怒りとは違う意味で顔を真っ赤にすると踵を返してその場から立ち去っていく。

　「やっちゃったなぁ」

ガリッと乱暴に頭を掻いたセツナは遠ざかっていくティナの背中を少しの間見つめていた時だ。
　プッと短く鳴らされたクラクションの音に気づき視線を向けると、そこには黄色のビークルが駐まっていて、一度だけ動かされたワイパーからバンブルビーが自分を案じてくれているのだと悟るとセツナはぎこちなく微笑む。
　自分の中でグルグルと逆巻く感情も、心の奥底でジクジクと痛む何かも、今は気づかぬふりをして、いつもと変わらないセツナという人間を演じることだけに専念する。

　「ごめん。ちょっとらしくもなくイラッとしちゃった」

申し訳ない、と言うかのように微笑みながら助手席に座ったセツナが軽快な口調で告げた言葉にメモは何とも言えない顔をしていたが、運転席に座っているチャーリーの姿を見ると意を決したかのような口調で告げた。

　「なぁ？リベンジしたくないか？」

復讐という穏やかなではない単語にセツナがどういう意味だと言うかのようにメモを見ると、メモはニヤリと意味深な笑みを浮かべる。

　「さすがに今日のティナはやりすぎだろ？ってことで自分の愚かさを省みる機会が必要じゃないかなぁって俺は思う」

心の底から今の状況を楽しんでいると言うかのようなメモはチャーリーへと視線を向け、彼女の意思を確認するが、肝心のチャーリーは良心の呵責に耐えきれないらしくハンドルを握りしめながら口を開く。

　「私はなにもしたくない。ううん。もう関わりを持ちたくはない」

辛い事からは目を背けて忘れたい。
　そう告げるチャーリーの言葉にメモはソレでは駄目だ、と言うかのようにブンブンと首を振るとカーラジオへと視線を向ける。

　「ビー。お前はどうしたい？」

　『”リベンジ！！”』

メモの意見に賛同するかのようなバンブルビーの返答にセツナは唖然とした顔をしてカーラジオを見つめる事しか出来なかったが、バンブルビーの返答を聞いてそれで良いのだと思うと泣き笑いに近い笑みを浮かべる。