ニヤニヤと意地の悪い顔をして笑いながらティナは近づいてくると、青い顔をしたままハンドルを握って微動だにしないチャーリーの姿を見て、ティナは友人達と目配せをするとクスクスと楽しげに笑う。

　「随分とボロボロの車乗ってるのね？」

憐れむかのような口調でティナはバンブルビーを見つめながら、チャーリーにはこんな車がお似合いだと言うかのように嘲笑う。
　チラリと自分の愛車ＢＭＷへと視線を向けたティナは勝ち誇ったかのような顔をすると、ハンドルを握ったまま黙り込んでしまっているチャーリーに対して言ってはならない言葉を口にした。

　「お父さんに新車買ってもらえないの？・・・・あ、ごっめーん。アンタの家ってお父さん居なかったんだっけ？」

チャーリーの事情を全て分かった上で、未だにチャーリーが父親の死を引きずっていることを解っていながら、意図的に人を傷つける発言をし、自分の発言で他人が傷ついている姿を見て嗤うというティナの行為に対し、セツナは流石にそれは人間として最低ではないかと思いながら口を開いた。

　「ティナ」

　「なに？」

　「うざいからどっか行ってくれない？」

ティナは何を言われたのかすぐに理解出来なかったらしく、真っ赤な口紅が引かれている口をポカンと開けてその場に立ち尽くした。
　間抜け面を晒すティナへと向かいセツナは笑みの一つの向けないまま、酷く冷めた目でティナの格好を頭のてっぺんから爪先に掛けて見つめる。
　ボディラインを象徴するかのような真っ赤な皮で出来た服、高さのあるピンヒールブーツ、ソレを見たセツナは蔑むかのような声で告げた。

　「夜の街角に立つのがお似合いね。その服はパパに買って貰ったの？パパが居る人は良いね。可愛くお強請りしたらパパがなぁんでも買ってくれるんでしょ？」

セツナの言う”パパ”の意味をティナは理解した瞬間、怒りで顔を真っ赤にするとセツナの右頬を手で叩く。
　流石に暴力行為に出るとはティナの友人達も思っていなかったらしく、戸惑った顔をして視線を彷徨わせながら事の成り行きを見つけることしか出来ない。
　怒りで顔を歪めるティナが早口で文句をまくし立てるのを聞き流しながらセツナは冷めた目をティナへと向ける。

　「そう言われるのが嫌ならそういう格好を止めたら？」

　「ふざけんなッ！私が何を着ようとも私の自由でしょ？」

　「そうね。その通り。だけどそれって私にも同じ事が言えるのよ？貴方の格好を見て、どう思うのかも私の自由じゃない？」

いくら大人びたいと言ったとしても、限度というものがあるだろうとセツナは思いながら淡々とした口調で告げる。
　チャーリーに対して細々と続いていたティナからの嫌がらせ。
　それに対してもっと早くに対処していたのならば、チャーリーはここまで傷つかなかったのだろうか？そう考えたセツナだったが、全ては結果論でしかないと自分に言い聞かせるとゆっくりと息を吐く。

　「私はティナがチャーリーに対して突っかかるのも貴方の自由だから、色々と思うところがあったけど、ティナにもティナの主張があるから何も言わなかった。でも人の不幸につけ込むような発言は言っちゃ駄目でしょ」

悪意を持って他人を傷つけてはならない。まるで幼子に言い聞かせるかのような呆れた口調でセツナは告げると、ティナは自分への侮辱からか唇を噛みしめると、視線だけで人を射殺せるのではないだろうか？と思えるようなと鋭い目をしてセツナを睨み付ける。
　ティナの形勢が悪いと判断したらしい友人達が、ティナのために声を出す。

　「貧乏人がひがんでんじゃないわ！！！」

　「そうよ！ティナに謝りなさいよ！！」

彼女達の口にした声に対してセツナは鼻で笑う。
　ティナが傷つくことは許されるが、チャーリーが傷つけられることは許されない。
　あまりにも身勝手すぎる彼女達の言動に対してセツナは怒りで頭がキンキンに冷えていくのを感じ取っていた。

　「謝るのはティナの方でしょ？」

今までティナ達がチャーリーに対して行ってきた事を思い出せば、誰が謝るべきなのかなど解りきっている。