どうしたら父親との思い出を捨てようとする彼女を思い止まらせる事ができるだろうか？とセツナは必死に頭を動かして考える。
　下手に言えばこの意地っ張りで頑固な幼なじみは猛反発してくるのは間違い無い。
　こんな時チャーリーの父ならば魔法の言葉を使って彼女を説得させられるのに、とセツナは思う。
　けれどここにはもうあの人はいない。
　ならばあの人の代わりに自分が何とかしなければと自分に言い聞かせたセツナはフッと短く息を吐くとチャーリーに向かって告げた。

　「解った。チャーリーがそう決めたのなら、トロフィーは捨てよう」

　「・・・・うん。そうだよね。それがきっと一番良い事だよね」

自分から言い出したことなのにその意見に対してセツナが同意すると、チャーリーは傷ついたような目をする。
　ソレを見たセツナはやっぱり捨てる意思なんて無いんじゃないか、父親との繋がりを断ちきることなんて出来ないでは無いか、と言いたくなったが下手にここで余計な事を言ってチャーリーにへそを曲げられても困ると判断するとゆっくりとした口調で話しかけた。

　「捨てるのは私の部屋ね？」

セツナの言葉にチャーリーは何を言われたのか解らないと言うかのような顔をしていたが、セツナが言わんとすることの意味を悟ると今にも泣き出しそうな程顔を歪めた。

　「意地っ張りチャーリー」

自分よりも高い位置にあるチャーリーの頭をなで回しながらセツナは笑う。

　「ありがとう」

　「気にしないで。いつか、気持ちの整理がついたらトロフィーを取りに来て？」

　「うん」

無言のまま二人はハグをすると相手の背中を軽く叩く。

　「セツナ。アンタ最近ちょっと太った？」

　「・・・そんな事無い。チャーリーの勘違いだよ」

自分でも最近目を背けていた事実を他人から容赦なく突きつけられた事にセツナはムッとした顔をしながらチャーリーから離れると、今言われた言葉を必死になって否定するがチャーリーはそれに対して嫌な笑みを浮かべる。

　「アンタ、私のバイト先に来て売り上げに貢献してくれるのは良いんだけどさ、ちょっとは考えて食べなよ？」

　「わ、わかってるよ！！」

　「解っていないから肉がついたんでしょ？まったく・・・そう言えばチュロス売りの男の子と随分と親しげに話していたけど知り合いなの？」

思い出した、と言うかのような口調で言われた言葉にセツナは乾いた声で笑うことしか出来なかった。
　チュロス売りの男の子、メモとは確かに話をしている。
　けれどそれはもっぱらチャーリーに関する話題だ。
　メモはチャーリーに対して淡い恋心を抱いているらしく、幼なじみであるセツナに対して想い人の好みやら、休日は何をして過ごしているのか、等という事を事細かに聞いてくるのだ。

　「もしかして好きなの？」

　「違うよッ！！！」

　「あら？顔が真っ赤ね。もしかして泣いちゃうの？泣き虫セツナ」
　
　「だから違うって！！・・・・もぅッ！チャーリーの意地悪ッ！！」

　「ごめんごめん！」

欠片も申し訳ないとは思っていないかのような顔で笑うチャーリーを見てセツナはホッと胸をなで下ろす。

　「（おじさんを喪った悲しみを埋められる何かを得られれば良いんだけどなぁ）」

今考えた事が簡単なようでいて実はとても難しい事であることくらいセツナは解っていた。