道なりにバンブルビーを走らせていたとき、前方から楽しげな音楽が流れてきたことにチャーリーは気づくと眉を寄せる。
　至る所に車が止められており、辺りにはチャーリーと同年代の男女が楽しそうに談笑していたり、何かを食べていたりしていた。

　「同じクラスのジムだ。あいつ・・・今週は凄く忙しいって言っていたけど、こういうことかよ」

　「今時期ってこういったイベントが多いもんね」

イベント、その言葉を口にした直後、セツナは嫌な予感を抱く。
　あまり娯楽施設のないこの街ではこういった若者向けのイベントは貴重で、それこそノリの良い年頃の者達がこぞって参加するのは必然だ。
　チャーリーやセツナはこういった事に参加するよりも、ガレージで車を弄っている方が好きなためあまり参加したことはない。
　だが、こういったイベントが好きそうな人物の顔を思い出したセツナは、辺りに駐められている車の中にＢＭＷが無いか確認する。

　「セツナ？友達でも居た？」

窓の外を何かを探すかのように鋭い目をして見つめていたセツナに気づいたチャーリーが、必要ならばバンブルビーを友達が居る方に移動させようか？と問いかけてきたが、その申し出にセツナは笑みを浮かべながら断る。

　「大丈夫だから気にしないで？」

　「そう？」

　「私が探していたのはティナだから。ほら、ティナってこういうの好きそうでしょ？せっかくビーに乗って、楽しいドライブしに来たのに、ティナに会ったら私達に対して必要以上に絡んでくるじゃない？そうなったらなんか今日のこと全部ぶち壊しになっちゃいそうだなぁって思ってさ」

　「「あぁ。なるほど」」

ぴったりと息の合った返答をしたチャーリーとメモの声にセツナは、やはり２人とも先日の遊園地での出来事がある為かティナに対して良い感情を抱いては居ないようだった。
　バンブルビーを走らせていたチャーリーは奥にある少し開けた場所を見つけると、そこにバンブルビーを停車させると車から降りる。

　「何かやっているな？」

岸壁の方に人が集まっていることに気づいたメモが興味深そうな声で呟いたとき、人垣の中から歓声が上がるのと同時に、人の輪の中心に居た人物が姿を現す。

　「あれってトリップ・サマーズ？」

遊園地でのバイトの時にレモネードを掛けてしまった人物だ。
　トリップは着ていた服を次々と脱ぎ捨て、最終的には下着姿になると周り居る友人達に向かって声高らかに誘いを掛ける。

　「誰か俺と一緒に飛び込みたいって奴は居るか？」

飛込み、その言葉を聞いたチャーリーの身体が何かに怯えるかのようにビクリと震えたことにセツナは気づく。
　すぐさまチャーリーの元に向かい、厄介な事に巻き込まれる前にここから離れようと良いに言おうとしたセツナが動くよりも早く、チャーリーに対してアクションを起こした者が居た。
　バンブルビーがドアを開いたかと思えばチャーリーの背を軽く打つ。
　いつもならばその場に踏みとどまれただろうチャーリーだったが、あまりにも突然の事に身構えることが出来ず、前に一歩足を踏み出してしまう。

　「お？勇気ある子が居たな？」

友人達に誘いを掛けていたトリップだったが、皆が苦笑を浮かべて断る中で立候補したチャーリーの姿に気づくと一瞬だけ目を見開いた直後、ある事に気づくと顔を輝かせながらチャーリーの元へと歩み寄ってきた。

　「君の事知ってるよ。妹と同じスクールに所属してたから何度か姿を見た事がある。確か・・・・飛込みの決勝戦までいったよね？」

決勝大会、その言葉を聞いたらしい人達からどよめきの声が上がり、チャーリーの飛込みに期待するかのように口笛を吹いたり、はやし立てるかのような声が次々とあちこちから聞こえ始める。
　ソレを見たトリップが満足そうに笑ったのを見た瞬間、セツナは自分の中で何かがブチッと音を立てて千切れたのを聞いた。