バンブルビーの能力というのは想像以上のモノだった。
　走行中に天井の一部を解放し、そこからチャーリーとメモが上半身を出して歓声を上げるのをセツナは後部座席の後ろからジッと見ていた。
　途中、メモの上着をチャーリーが借りて目隠しに使用したのだが、風に吹き飛ばされてしまったときには思わずお腹を抱えて笑ってしまった。
　車内に戻ってきたチャーリーとメモは先程見てきた絶景を賞賛し続けている。

　「セツナもやれば良かったのに！」

　「チャーリー・・・私がジェットコースター系が苦手なのは知っているでしょ？」

絶叫系のアトラクションが苦手だと言うことをチャーリーは知っていながらも、それを口にしたことにセツナはムッとした顔をして抗議をすると、チャーリーは謝罪の言葉を口にした。

　「でもさ、俺のシャツが行方不明だ。さすがに車の中で上半身裸ってのは色々とまずいだろ」

自分の上半身をそっと抱きかかえながらメモが恥ずかしそうに告げる。
　その言葉にセツナも同意だと言うかのように頷く。
　バンブルビーの中に乗っているのが全員男だったのならば問題は無かったのだろうが、異性が乗っている状態で誰かに見られれば色々と勘ぐられるだろうと思ったからだ。

　「セツナ！後ろに私の上着があると思うからメモに渡してくれる？」

チャーリーが言ったように後部座席の隅に丸められて置かれているパーカーを見つけたセツナがメモにソレを渡すと、メモはジッとパーカーを見つめている。

　「大丈夫だって。洗濯してから一度も着てないからさ」

　「・・・・うん。そっか」

少しだけ落胆しながらメモはパーカーを着る。
　車内の話題になるのはバンブルビーの事で、メモは数分前に実際に自分の目で見たバンブルビーの能力に関して現時点の科学では到底実現できない事だと口にした。

　「研究者達がビーの事を知ったら色々と調べたがるだろうな？捕まったらバラバラにされて実験材料にされるぜ？」

脅すかのような口調でメモがバンブルビーに向かって告げた瞬間、ラジオからザザッとノイズ音が鳴り響いたかと思えば陽気な音楽が流れ出す。

　『”科学はブキミだぜ”』

あまりにもタイミング良く流れた音楽に対し３人は驚いたように目を開き、今何が起こったのだと言うかのように無言のまま視線を合わせる。

　「ラジオ選ぶの上手いね」

　「本当。ＤＪになれるんじゃないか？」

車内に満ちた嫌な雰囲気を解決するためかチャーリーがバンブルビーのラジオチョイスを褒め、ソレに続くかのようにメモも賛同の言葉を口にした。

　「まるでおしゃべりしているみたいだねぇ」

バンブルビーが声を出せないことは知っている。
　恐らく、元々は声を出せたのだろうが何かがバンブルビーの身に起きて声が出せなくなったのだろうなとセツナは感じ取っていた。
　だからこうして偶然とは言えバンブルビーがラジオを使って自分の意思を主張したことは純粋に嬉しかった。

　『”ラジオ無しじゃ生きられない！！”』

再び聞こえたラジオの音。
　それを聞いた瞬間、チャーリーの頭の中でバンブルビーがラジオのチャンネルを回し続けていた事の意味が繋がる。

　「もしかして・・・・ラジオを使ってしゃべろうとしたの！？嘘でしょ！！ビー！！アンタって天才だわ！！！」

　「ビー凄い！！」

キャーキャーと黄色い声を上げて喜ぶ女性陣の声を聞きながらメモは想像以上に凄まじい能力を持っているバンブルビーをポカンと口を開けて見つめる事しか出来ずにいた。