父が話があると告げたときの母の様子から、母は何となく父が話そうとしていることを聞いているのだろう。
　それがセツナには良くは無いことだと解っているからこそ、母は最近、夜遅くまで出かけているセツナに対して良い顔をしないのだ。

　「セツナ？どうかした？気分でも悪い？」

急に黙り込んだセツナに対しチャーリーは不安そうな声音で案じる言葉を投げかけてきたため、セツナは気にするなと言うかのように微笑むと助手席のシートを倒し、後部座席に座ったセツナの姿を見たチャーリーは不思議そうな顔をして問いかける。

　「助手席に座らないの？」

　「何となく今日は後ろに乗りたい気分なんだ」

　「ふぅーん」

何か感じ取ったらしいチャーリーが半眼になって気の乗らない返事をする中、メモが慌てて助手席に座り込むとこの場所から動きませんと言うかのようにドアを閉める。
　　
　「じゃ！揃ったことだし行きましょうか！！」

どこに行くのだ、あの場所はどうだ？と楽しげに行き先を話すセツナはこの日々がずっとずっと続けば良いなと思いながら、そっと車の中を愛おしむかのように撫でるとソレまで静かだったラジオのスイッチが入る。
　相変わらずチャンネルを回しては次々と番組を変えていくバンブルビーは何かをしているのだが、車内に居る３人とも意味我が狩らず黙ってラジオを見つめる事しか出来ない。

　「あー・・・とりあえず、ラジオで何をしようとしているのかは彼だけが解っているみたいだから、彼の好きにやらせておこう」

メモの提案にチャーリーは賛成だと言うかのように頷く。

　「バンブルビーのこと教えてくれる？」

　「知りたいの？」

　「勿論。だって世界中探したって変形する車なんて無いぜ？」

まるでＳＦ映画だ、と言って目をキラキラと好奇心で輝かせるメモの顔を見たチャーリーは、バンブルビーが受け入れられたことが純粋に嬉しいらしくバンブルビーの事に関して色々と話し始める。
　ハンクの店で見つけたこと、ロボット姿になったこと、人間社会で生きていくためには必要な常識、それらを話し終えたチャーリーは一息つくと今までの陽気な声とは打って変わって真剣な声でバンブルビーが抱えている問題を口にした。

　「記憶が無いのよ。どこから来たのか、家族は居るのか・・・聞いてみたけど解らないみたいでね」

　「どこの星から来たのかも解らないって事か」

なんだかソレは少しばかり寂しいな、とメモが呟くと車内には何とも言えない悲しげな雰囲気が満ち足りていく。
　この雰囲気はドライブには合わない、そう判断したチャーリーは場違いな程明るい声を出す。

　「ねぇ！ビーの能力見てみない？」

　「へ？」

何を言っているのだ？と言うかのような声を出したメモの目の前でチャーリーはハンドルから両手を離す。
　そんな事をしてしまえば車が暴走してしまうと思ったメモが慌ててハンドルを掴もうとしたが、ソレは必要ないと言うかのようにチャーリーがメモの手を掴む。
　車は道路から逸れる事も無く、順調に走り続けていることにメモは何が起こっているのか解らないと言いたげな顔をして固まる。

　「もしかしてビーが運転してるの？」

　「そ！正解！！」

後部座席に座っているセツナが信じられないと言うかのような声で問いかけると、チャーリーは満面の笑みを浮かべて頷く。
　車の姿になれるのだから運転できても可笑しくはないが、車が車を動かすという状況にセツナは少しだけ複雑な気持ちになったのは彼女だけの秘密だ。