すでに助手席にはメモが座っており、彼は助手席のドアを開くとバンブルビーの中から降りてくる。

　「セツナ！頼む」

縋るように言われた言葉にセツナは苦笑を浮かべながら頷けば、メモはガッツポーズを握りしめると、感謝の気持ちを伝えるかのようにセツナを軽く抱きしめる。
　突然のハグにセツナは驚きつつも軽くメモの背を叩いたときだ。
　凄まじい勢いでクラクションが鳴らされ、ビクッと肩を震わせたセツナがバンブルビーの方を見るとそこには驚いた顔をしてハンドルを握っているチャーリーの姿があった。
　突然鳴り響いたクラクションに近所の人達が驚いたように見てくることに気づいたチャーリーは、焦った顔をしてハンドルを叩いているが音は止る気配を見せない

　「どうしたんだろ？」

　「もしかしてハグの事を勘違いしてるとか？」

　「メモが私を攻撃してるって？・・・まさか。だってチャーリーとは何度かビーの前でハグしてるんだよ？」

自分のやった行動がもしやセツナに対する攻撃行為と判断されたのだろうか？と思ったメモが顔から血の気を引かせる中、セツナはソレはあり得ないことだと言うかのように否定した。
　セツナは今言ったようにバンブルビーの前でチャーリーの事を抱きしめた事があったが、その時は何の反応も示さなかった。

　「とりあえず離れる」

メモがセツナから離れれば五月蠅いくらいに鳴り響いていたクラクションは急にピタッと止る。
　運転席のチャーリーが唖然とした顔をして座っているのに気づいたセツナは、あぁやっぱりバンブルビーがハグの事を勘違いしたのだと思うと何とも言えない顔をして黄色の車を見つめた。

　「全く」

腰に手を当てて呆れたようにため息を吐いたセツナはバンブルビーへと近づく。

　「おはよう、チャーリー」

　「うん。おはよう。・・・ごめん、なんか急にクラクションを鳴らし始めたの」

唇を尖らせたチャーリーが咎めるかのようにハンドルをポンッと叩くと、ラジオから蜂の羽音のような音が聞こえてきた。
　まるで言い訳をしているかのように聞こえたチャーリーとセツナは顔を見合わせると、同時にプッと吹き出すと笑い声を上げる。

　「可愛いイタズラ蜂さん？急にどうしてクラクションを鳴らしたの？」

ある程度笑って満足したセツナは目尻に浮かぶ涙を指で拭いながら問いかけるが、聞こえてくるのは文句の言いたげな機械音だけだ。
　ロボットの状態ならば顔を見たり、もしくはジェスチャーなどで意思の疎通が出来たのだろうが車姿のバンブルビーとの交流は難易度が高すぎた。

　「メモとセツナはハグしただけじゃない」

　「そうそう挨拶みたいなもので私に危害を加えようとしたんじゃないだよ？」

２人から諭すかのようなことを言われたバンブルビーはキュゥゥゥンという悲しげな音を鳴らす。
　まるで叱られた子犬みたいな音にチャーリーが声を上げて再び笑い出し、セツナは何ともぴったりな音を出すなぁと感心しながらそっとハンドルを撫でた時、腕時計の文字盤が偶然視界に入り表示されている時刻を見てゆっくりしてはいられないと思うと口を開く。

　「チャーリー、あのね今夜は１８時までに家に帰らなきゃならないの。父さんがちょっと話があるみたいでさ」

　「あー・・・最近、私と遅くまで遊んでるからお小言でも貰いそう？」

もしもそうならば自分にも責任があるから、一緒に怒られても構わないと言うかのような口調でチャーリーが告げると、セツナは違うと言うかのように首を振る。

　「多分、そんなんじゃ無いと思うから安心して」

正直な気持ち父が何を話そうとしているのかセツナには解らないが、何となく良くはないような話題だということは薄々セツナは感じ取っていた。