いつもよりも少し早い時間に目を覚ましたセツナは身支度を終えると自室を出て、リビングへと向かうと見慣れた後ろ姿を見つけると声を掛ける。

　「おはよう、母さん」

　「おはよう。セツナ。今日は早いのね」

　「うん。チャーリーとちょっとドライブに行ってくる」

チャーリーの名前を出すと母の顔が曇ったことに気づいたセツナはしまった、と思ったものの下手な嘘は首を絞めるだけだと判断し、母に対して今日は早く帰ることを約束しようとしたときだ。

　「チャーリーが良い子なのは知っているわ。だけど、貴方ここ最近遅くまでご厄介になっているでしょう？」

　「あー・・・うん。そうだね。でもサリーおばさんにはちゃんと挨拶してるし、居るのはガレージだから問題はないと思うけど」

　「ガレージと言えば最近見慣れない車があるわね」

　「ハンクおじさんに貰ったの。誕生日プレゼントって事でね。だからソレを直したり、色々と弄ったりするのが楽しくてさ」

朝食の用意をしながらセツナは何気ない話をするかのような口調でワトソン家に最近通い詰めている理由を話せば、母の顔がどんどん強ばったものへと変わっていく。
　セツナがチャーリーと車いじりをする事に対して母は寛容だった。むしろソレが好きならばそういった道に進み、ソレを活かした生き方をしても良いと言っていたのに、今の母の反応は少しばかりセツナには気になった。

　「母さん？」

　「今夜は早めに帰ってきて頂戴ね」

　「あ、うん。元々そのつもりだったよ」

　「昨夜お父さんから電話があってね、お父さんが貴方に少しお話があるって言っていたの。今日の夜にまた電話するって言っていたから１８時までには家に帰ってくるようにして」

　「はい」

父が自分に話があるなんて珍しいな、とセツナは朝食を食べ始める。
　ここ最近、父と話をしたのはビーと出会ってすぐのことだ。ビーの事に関して探りを入れるためにやんわりと変形する車の関して聞いてみたところ、父は何か思う事があったのか、それとも心当たりがあったのか電話越しの様子がおかしくなったのだ。

　「（あの時の事と今夜の電話って関係あるのかな？）」

父の仕事が研究者という事だけしかセツナ知らない。
　何を研究しているのか、等と言うことは一切口外してはならないらしくそれは妻子に対しても徹底されている。
　常に研究所に缶詰状態で、家に電話をすることは自由らしいが帰ってくる事は難しいらしく、この家で一緒に食事を食べたのは一年間でほんの数週間程だ。
　かなり重要な研究をしている、そう思ったセツナの脳裏にバンブルビーの顔が浮かぶ。

　「（ビーの仲間と出会っているなんてことはないよね）」

食後のコーヒーを飲みながらセツナは考えると、そんなに都合良く物事が進む訳なんてないと自分に言い聞かせた。
　カップをテーブルの上に置いたセツナの脳裏にバンブルビーが宙に映し出した映像が蘇る。

　「（戦争って言っていた）」

縋るように両手でカップを握る手は震えている。
　もしもバンブルビーが戦っている相手が地球に来ていて、そしてその相手と父が顔見知りになっていたのならば、と考えたセツナはそれはあり得ないことだと思いながらそっと目を伏せた時、外からクラクションが鳴らされたことに気づくと慌てて椅子から立ち上がる。

　「行ってきます」

逃げるようにして外に出たセツナはバンブルビーを見ると小さく手を振る。