チャーリーの頭の中にあるのはバンブルビーの事をどうやって黙っていてもらうかという事だけだ。セツナもメモが妙な素振りをするのならば何とかしてこの場に留めておこうと考えていた時だった。
　この状況に痺れを切らしたチャーリーはキッと目尻を釣り上げるとメモへと告げた。

　「今日見たことは黙っていてね。他の誰かに言うつもりなら」

　「言うつもりなら？」

ゴクリ、と生唾を飲み込んだメモが上擦った声で聞き返す。
　まさか聞き返されるとは思っていなかったらしいチャーリーはギョッとしたかのように顔を引きつらせると、「あー・・・・」と言いながら視線を左右でと動かしていたが、特にコレというアイディアが浮かばなかったらしく、助けを求めるかのようにセツナへとチラチラと視線を向けてきた。
　
　「（えぇ・・・私に振るの？）」

ヒクッと片頬を引きつらせたセツナはどうすべきか考えていた時、視界の片隅で黄色の車が見えた為、これならば良いだろうと判断すると無言のままある動作をする。
　最初はハンドルを持って車を運転するかのような仕草をした後、そっとメモを指さすと左右の手をそれぞれ握るとコンッとぶつける。
　ソレを見たチャーリーは「なるほど。良いアイディアね」と言うかのように大きく頷いた後、メモの方へと視線を戻すと堂々とした口調で告げた。

　「アンタの事あの車で轢いちゃうからね」

完全な脅し発言にメモは命の危機を感じ取る。
　あの変形する黄色の車から殺されるかもしれないという可能性は考えていたが、まさかチャーリーから命を脅かされるとは欠片も想像すらしていなかったのだ。

　「・・・・ソレ酷くないか？」

　「それだけ私達にとっては重要な事なのよ」

解った？と言うかのように指を差したチャーリーに対し、メモは降参するかのように顔の横に手を上げるとガレージの中にあった雰囲気が少しだけ柔らかなものへと変わる。

　「無事に解決したようで何よりだね」

メモの逃走がなくなったのでセツナはガレージのドアの前から離れると、メモの顔をのぞき込む。メモがチャーリーのことを密かに想っていて、ずっと話をしたいと願っていたことを知っているセツナはウィンクを一つするとメモは少しばかりぎこちないが微笑み返してくれた。

　「じゃ、改めて紹介するわね。バンブルビーよ」

名前を呼ばれたバンブルビーは恐る恐るロボットの姿になると、初対面のメモに対して少しばかり緊張しているのか身構える。

　「メモは悪い奴じゃないよ。ビーに危害を加えるようなことはしないから安心して？」

ちょっとシャイな青年だとセツナがバンブルビーに対して告げると、バンブルビーは手を小さくヒラヒラと振って「よろしく」と挨拶をする。
　まさかロボットから挨拶をされるとは想像していなかったらしいメモは大きく目を見開きながらも、つられるかのようにヒラヒラと手を振って挨拶を仕返した。

　「あ、あははは。よろしく」

　「自己紹介も無事に終わった事だし、明日は交流会って事でドライブでもしに行かない？その方がメモもビーの事を知ることが出来るでしょ？」

　「勿論、俺は喜んで参加するよ！！うん、交流会最高！！」

どこか下心のありそうなメモの言葉にチャーリーは訝しむかのような目を向けていたが、それほど問題ないだろうと判断するとセツナの方に身体を向ける。

　「明日迎えに行くね」

　「解った・・・あ、そろそろ私は帰るね。明日も出かけるなら早めに帰って母さんのご機嫌取りしておかなきゃ」

バンブルビーと出会ってからセツナが家に帰る時間は遅くなっており、母はその事に関して何か言いたげな顔をしていることをセツナは知っている。
　鞄を手に取ったセツナはチャーリーとハグをし、メモの肩を軽く叩いた後、バンブルビーの方を見ると寂しそうな青い目が向けられていた。

　「また明日ね？」

セツナの言葉にバンブルビーはヒラヒラと手を振ってくれたのを見届けてから、ガレージを出て家路へと向かって歩き出した。