ムッとした顔をして立ち尽くしているチャーリーの姿を見たセツナはこれは家で何かがあったのだと悟るとそれを顔には欠片も出さぬまま微笑むと、無言のまま両手を広げる。
　いつもならば問答無用で抱きついてくるはずのチャーリーだが今日に限っては何かを躊躇うかのように、まるで誰かの温もりに触れる事を恐れるかのようにその場に立ち尽くしていた為、セツナは何があったのだ？と言うかのように彼女を見つめる。
　
　「チャーリー？」

　「・・・・何でもない」

ふて腐れたかのような態度でチャーリーはセツナの肩口に顔を埋める。
　抱きついてきたチャーリーの背に手を回したセツナは自分よりも肉の薄い背中をあやすかのようにポンポンと軽く叩く。

　「ママがね、再婚したいんだって」

まさかの申し出にセツナは驚きのあまり彼女の背中を叩く手を止めてしまう。
　チャーリーの母、サリーが最近見慣れない男と会っている事はご近所でも有名な話であったが、まさか再婚するとはセツナも想像していなかった。
　せめてもう少しくらい娘の気持ちに整理がつくまで、もしくは娘が落ち着くまで待てなかったのだろうか？という怒りをセツナは抱く。

　「笑えるよね」

　「チャーリー。そんな事を言っている場合じゃないんじゃないの？」

　「私は平気だよ。コレまでと変わらない・・・ただ、家は色々と変わる。ううん。変わっていく」

死んだ人の事を忘れていく。
　それは当たり前の選択なのかもしれないが、少なくともまだ父を失った痛みを、傷を癒してはいないだろうチャーリーには酷な現実でしかない。

　「ねぇチャーリー。私が気づいていないとでも思った？あの日から貴方が一度たりとも飛込みをしていないって事に」

父親の死を切っ掛けに飛込みをしなくなったチャーリーの異変にセツナは真っ先に気づいていた。

　「サリーおばさんとちゃんと話した？」

　「ママはもうパパの事なんて過去の事になってる」

　「・・・私からサリーおばさんに言おうか？」

娘の身に起きている異変に家族であるはずの母、サリーが気づかぬ訳がないだろうと思いながらセツナが少しばかり強い口調で告げればチャーリーは困ったような声で笑い声を上げる。

　「言っても無駄だよ。新しい彼氏に夢中だから・・・オーティスもパパの事なんて忘れて空手に夢中だもの。あの家でいつまでもパパのことを覚えているのは私だけ」

ぎこちなく微笑みながらそう告げたチャーリーが泣いているかのようにセツナには感じられた。

　「セツナと私くらいだよ。未だにパパのことを引きずってるの」

　「・・・チャーリー。私に出来る事、何かある？」

　「その気持ちだけで十分だよ」

無理矢理笑ったチャーリーの笑みを見たセツナは、やはり彼女が無理をしているのだと気づく。
　サリーに対し、もう少しだけ再婚するのを思い止まってチャーリーと向き合うように進言しにしようとしたときだ。

　「いいの。言ったでしょ？私は平気だって」

　「だけど」

　「トロフィーも近い内に捨てるつもりだし」

　「チャーリーッ！！駄目だよ、そんな事したら、おじさん悲しむよ？」

　「もう決めた事なのッ！！」

強い口調で言い返してきたチャーリーの態度から、きっと彼女自身もまたトロフィーを捨てる事に対し何らかの罪悪感を抱いているのだとセツナは理解した。