ラジオから流れる音楽に合わせバンブルビーがリズムを刻んでいることに気づいたチャーリーは驚いたように目を見張る。

　「もしかして踊れるの？・・・音楽って色々とあるのよ？例えばそうねぇ」

踏み台から降りたチャーリーはカセットテープを手に取るとバンブルビーに差し込む。

　「コレ私のお気に入りよ」

ガレージ内に響き始めた音楽がスミスだったことにセツナは期待に満ちた眼差しでバンブルビーを見つめる。
　バンブルビーが音楽が好きならばこれから先、ドライブなどをした時にガンガン音楽を流しながら楽しく過ごせると思ったからだ。
　チャーリー自身も自分の愛車がスミスが好きならば良いなと願っているらしく、キラキラと輝いた目をしてバンブルビーを見つめていた時だった。
　今まで鳴っていた音楽が止ったかと思えばガシャンッという音を立てながら勢いよくカセットテープが飛び出す。

　「・・・スミス嫌い？」

戸惑いながら吐き出されたカセットテープとバンブルビーを交互にチャーリーは見つめる。自分のお薦めが嫌われたことに対しチャーリーは呆然とした顔をして立ち尽くす。

　「チャーリー。他にはお薦めとかない？」

まさか音楽性が合わなかったからと言ってカセットテープを吐き出すという暴挙に出るとは想像すらしていなかったセツナは、困惑しつつもここで諦めてしまっては駄目だと自分に言い聞かせるとチャーリーへと新たな提案をする。

　「あ、そうだね。ビーにだって好みがあるか・・・解った！一通り聞かせてみよう」

新たなカセットテープを手に取ったチャーリーは今度こそバンブルビーが気に入るように、と祈るような気持ちで差し込む。
　先程と同じく順調に流れ始めた音楽にセツナはバンブルビーの顔を見たとき、その行動を選んだ事を後悔した。
　いつもはクリクリとした可愛らしい青い目をしているはずなのに、今は好みの合わない音楽を聴かされた不快感からか半眼になっていたからだ。

　「チャーリーッ！！伏せて！！！」

引きつった声でセツナが叫ぶように告げた警告にチャーリーは条件反射でその場にしゃがみ込んだ直後、彼女が先程まで立っていた場所を凄まじい勢いで何かが飛んでいく。
　一寸遅れてガシャンッという衝突音がした直後、壁に掛けられていた工具がいくつか床の上に落ちて耳障りな音を立てた。

　「・・・・解った。解ったから」

降参だと言うかのように肩をすくめたチャーリーだったがバンブルビーの好みの音楽を調べることは止めることはしない。
　お金を貯めてコツコツ買っていたカセットテープをジッと見つめるチャーリーの目は真剣だったが、ふとある事に気づくとチャーリーは勢いよくセツナの方を見る。

　「セツナ。ちょっと協力してくれる？」

　「何に協力したら良いの？」

　「ビーの好みの音楽を知ることよ。・・・私の持ってるカセットって大体同じような感じのものでしょ？セツナは私とは違った感じの曲を聞いてるから、いくつかビーに聞かせたいなぁって思ったの」

　「そういうことね。解った。ただ持ってくるのは明日でも良いかな？今家に帰ったら絶対に今日はもう出かけるなって言われる」

　「解った。お楽しみは明日ね」

早く明日になればな、と思いながらチャーリーはバンブルビーの方へと視線を向けた瞬間、バンブルビーの指がある物が収集されている棚に伸ばされていることに気づくと慌ててその腕に飛びついた。

　「駄目！その棚には触らないでッ！！！」

胸が痛くなるかのような悲痛な声音でチャーリーは必死に訴えると、バンブルビーは慌てて金属の指を引っ込める。

　「・・・・それはパパの形見なの」

だから誰にも触れて欲しくはないのだ。
　言葉に事しないがチャーリーがそう訴えている事に気づいたバンブルビーは申し訳ない、と言うかのようにシュンッと肩を落とした。