黒髪とアジア人の特徴が出ている顔立ちの為か、幼少期はその事で虐められたことが何度も遭った。その度にチャーリーがいじめっ子と喧嘩をし、泣きじゃくるセツナを慰めてくれた事を思いだしたセツナは指先に巻き付けた髪をジッと見つめていたときだ。

　「セツナ。悪いけどちょっと手伝ってくれる？」

　「解った」

チャーリーからの呼び出しにセツナはコルベットへと近づく。

　「ここ持っててくれる？」

　「うん」

　「ビー？映画が気に入ったのなら好きなの見て良いから大人しくしててよ？」

名前を呼ばれたバンブルビーだったが、チャーリーから映画を見て良いと許可を貰うと楽しそうに背中にあるドアをガチャガチャと揺らす。
　まるでミツバチの羽のようだとセツナが思っていたときだ。

　「後でビーには髪のことに触れないように教えておく。ごめん、まさか髪のことが気になるなんて思っていなかった」

　「気にしないで。今となってはもう平気だし」

　「それってもしかしてパパが昔言った「今はどんな色をしていようとも、あと数十年も経てば皆仲良く白髪さ」の言葉があるから？」

　「うん。それを聞いて確かにそうだよなぁって思ったら、髪のことを言われても気にならなくなった」

泣きじゃくるセツナを連れて帰ってきたチャーリーの姿を見たチャーリーの父は、話を聞き終えると2人を抱きしめながらそう言ったのだ。
　懐かしい思い出に2人の間に愛おしくて懐かしく、そして言葉に表せない悲しさが混じったような雰囲気が流れる。
　最後の配線が思うように外せず、ラジオを取り出す事に苦戦をしていたチャーリーが困ったようにため息を吐いたときだ。

　「頑張れチャーリー！！」

突然、聞きたかった声が届けられる。
　その声に弾かれるかのように2人が振り返れば、そこにはＴＶに映し出されているチャーリーの父の姿があった。
　高台からプールに向かって飛び降りるチャーリーの映像が流れ、チャーリーの姿が水の中に消えると辺りから歓声が飛び交う。ビデオを撮りつつも娘の晴れ舞台に興奮しているらしいチャーリーの父の顔がアップで映し出された瞬間、チャーリーは我を取り戻すとコルベットから飛び降りる。

　「何を見ているの！？それは見ちゃ駄目ッ！！！」

慌てて停止ボタンを押したチャーリーの姿を見たバンブルビーは自分がしてはいけないことをしてしまった、と判断したらしく身体を丸めると怯えたような雰囲気でチャーリーを見つめる。
　その姿を見たチャーリーはハッとした顔をした後、バンブルビーに向かい小さな声で「ごめん」と告げると目元を手で覆い隠す。
　何か言わなくては、そう思ったセツナがチャーリーの元へと行こうとした時、ラジオがコルベットから外れていることに気づく。

　「・・・チャーリー。ラジオが外れてるから、ビーのと交換しよう」

　「うん。そうだね」

ＴＶのスイッチを切ったチャーリーはバンブルビーに向き合うと経つように指示を出し、近くに置いてある踏み台をバンブルビーの前に置くとそれに乗る。
　腹部の辺りにあるパーツをコンコンッと手で叩けば、その部分の装甲が開き中からラジオが現れ、それを見たチャーリーは慣れた手つきでラジオを外す。

　「はい」

　「ありがとう」

新しいラジオをチャーリーへと渡せば間を置かずに古いラジオが差し出された為、セツナはソレを受け取ると黙ってチャーリーの作業を見守る。
　配線を繋ぎ終えたチャーリーはラジオを格納するとツマミを手で取りラジオ局を選ぶ。
　最初こそノイズ音がしていたラジオだったが、ブツッという音が鳴った直後に流行の歌が流れ出したことにチャーリーとセツナは顔を見合わせると、満面の笑みを浮かべてハイタッチをした。