セツナが選んだ映画はここでチャーリーと一緒にコルベットを直しながら流していた映画だ。内容を暗記してしまえる程何度も見ているので、これならばチャーリーも映像を見なくても一緒に楽しめるだろうと思って再生ボタンを押す。
　初めて見る映画にバンブルビーは興味津々らしく、微動だにしないままジッとTVを見つめ続けており、どうやらお気に召したらしいと判断したセツナは特に見張っている必要はないと判断すると近くに置いてある雑誌を手に取ると読み始める。
　どれくらいそうしていたのかは解らないが、髪に何かが触れているような気がしたため雑誌から視線を上げるとそこには金属の指があった。

　「私の髪に何かご用？可愛いイタズラ蜂さん？」

セツナが問いかければバンブルビーは慌ててセツナの髪から指を放す。
　勝手に触ってごめんなさい、と言うかのように微かに目を伏せたバンブルビーの姿を見たセツナは苦笑を浮かべるとバンブルビーの指を掴む。

　「私の髪に触りたいの？何の変哲もない髪だけど良ければどうぞ？」

バンブルビーの指を掴んでは無い方の手で自分の髪を一房手に取ったセツナは、それをバンブルビーの指に触れさせる。
　セツナから許可を得た為か、バンブルビーは嬉しそうに頭部のパーツを揺らしながら髪を指先で撫でて感触を確かめ始める。
　それほど長い時間ではなかったが、満足するまでセツナの髪を堪能したバンブルビーはあっさりと髪を放すと、少し乱れてしまった髪を指先で整えるとお礼を言うかのように何度も頷く。

　「もう良いの？」

問いかけにバンブルビーはぐっと親指を立てて応える。
　それは映画の中で役者がやっていた動作だ。
　また一つコミュニケーション能力が上昇したことにセツナは驚く。

　「ビーはまるで人間みたいだね」

姿形が違うだけで本質は同じなのかもしれないなぁと思いながらセツナはバンブルビーの頬に触れると、バンブルビーは甘えるかのようにその手にすり寄ってくる。
　うっとりと目を細めるその姿はネコのようだ。

　「それにしても髪に興味があるなんてちょっと意外だったよ」

自分には無いものだから興味があったのだろうか？そう思いながらセツナは疑問を口にするとバンブルビーは閉じていた目を開くと、セツナとチャーリーを交互に見つめては小首を傾げる。
　何か２人に対する疑問があるのだと理解したセツナは、バンブルビーの言い分を理解しようと必死に考え始める。バンブルビーも自分の中にある疑問を伝えようと必死にジェスチャーを行うが思うように伝わらず悲しそうに肩を落とした時だ。
　青い目が何かに気づいたかのようにキラリと一瞬、強い光を放ったかと思えばバンブルビーの指先が先程までセツナが読んでいた雑誌を示す。

　「このモデルに興味があるの？」

雑誌には金髪の女性が妖艶な笑みを浮かべてこちらを見つめてきている。
　もしかしてバンブルビーもこういったタイプが好きなのだろうか？とセツナは思い雑誌がよく見えるようにかざすと、バンブルビーはフルフルと首を振った後、女性の髪を指で示した後、再度セツナの髪に触れる。

　「・・・・もしかして髪の色が違うって言いたいの？」

そうです、その通りです、と言うかのようにバンブルビーは何度も頷いた。
　チャーリーは焦げ茶色の髪、モデルは金髪、そしてセツナは黒髪ということもあってか、それぞれの髪の色が違うことがバンブルビーには気になったらしい。
　思えば映画の出てくる役者達も皆、髪の色が違っていたなとセツナは思い出す。

　「髪や目の色は生まれた国とかでちょっと違いがあるんだよ。私には違う国の血が流れているから、ちょっと毛色が違うんだ。えぇっと確かこの辺に地図があったはずだから待ってて」

棚に収納してある本をジッと見ていたセツナは、目的の物を取り出すとバンブルビーにも見えるようにそれを広げる。

　「ここが今私達がいる国ね」

アメリカ合衆国を指で示したセツナは次に小さな島国を指さす。

　「私の母はこの国の出身なんだ。私は母の血が強く出たみたいで黒髪なの」

自分の指先に毛先を軽く巻き付けながらセツナがバンブルビーの疑問に答えれば、バンブルビーは納得したと言うかのようにコクコクと頷いた後、再度セツナの髪に触れるとうっとりと目を細めた。