その後もいくつか練習を重ねた結果、バンブルビーは何が良くて、何が悪いのか、自分はどう動くのが一番良いのか学ぶ。
　チャーリーが色々と質問をしては、時に正解し、時に間違える、という事を繰り返しているバンブルビーの姿をセツナは少し離れた所から応援していた。
　浜辺に吹いていた風が冷たくなりはじめ、身体の奥底から震えがきそうな寒さを感じてきた頃になりようやく本日の練習は終りを迎えた。

　「ってことで練習はおしまい！」

パンッと軽く手を叩いてそう告げたチャーリーの言葉を聞いたバンブルビーはコクコクと頷く。嫌な事が終わった、と言いたげな様子にセツナは労うかのように頭を撫でてやるとバンブルビーは頭部のパーツを嬉しそうに動かしながらご機嫌そうに瞬きをする。

　「ビー！車になってくれる？」

瞬時にロボットから車へと変形したバンブルビーは運転席と助手席のドアを開く。
　中に乗り込んだチャーリーは座席の下に置いていた地図を手に取ると、道を確認し始める。

　「どこか寄るの？」

　「ビーが今日の練習を頑張ったからご褒美にドライブでもして帰ろうと思ってね」

ウィンクをしたチャーリーはそう告げると目的へと向かってバンブルビーを走らせるが、その横顔をセツナはジッと見つめながら嘘が下手だなぁと思いながら幼なじみを見つめる。
　地図に書かれている道路の一部が赤ペンで丸く書かれていた。
　今日の結果がどうであれ、チャーリーは予め調べて置いたドライブコースを走るつもりだった。

　「意地っ張りチャーリー」

バンブルビーを喜ばせるためにやっているのだから、素直にそれを口にしたら良いのにそれをしないチャーリーに対してセツナが含みのある口調で彼女の事を呼ぶ。
　長い付き合いからかセツナが言いたいことを解っているチャーリーは微かに唇をを尖らせると口開く。

　「なによ、泣き虫セツナ」

　「べっつにぃ？」

助手席の窓から景色を見つめながらセツナは返事をする。
　目的地に向かうまでの間、２人の話題になるのはバンブルビーの事だ。

　「ビーってさ記憶がないよね？」

　「そうね。どこから来たのか、自分が誰なのかも解らないものね。たった一人きりってのも中々辛いものがあるよ」

同情するかのようにそっとハンドルを撫でるチャーリーの言葉にセツナは気づかうかのように彼女を見ると、大丈夫だと言うかのようにチャーリーは微笑む。
　その笑みは無理矢理笑っているかのようなもので、セツナは幼なじみを励ますための言葉を口にしようと思うのにこの場に相応しい言葉が何一つとして出てこない。

　「私のことは平気。大丈夫だから気にしないでよ・・・あと十ヶ月もしたら家を出られるから。そうしたら自由の身だもの」

あの家には自分の居場所などないから時期が来たら出て行く。
　そう言うかのように虚勢を張って強気な発言をするチャーリーの言葉にセツナはそっとチャーリーの肩を撫でる。

　「もしもその時は私も一緒について行っても良いかな？」

　「え？」

　「１人よりも２人の方が楽しいよ？ね？」

旅は道連れ世は情け、とはちょっと違うかな？と思いながらセツナが告げたとき、カーラジオからノイズ音が聞こえてきたことに２人は視線を向ける。
　このタイミングでこういった反応をするということから、恐らくバンブルビーはその時は自分も連れて行けと訴えているのだと悟ったチャーリーとセツナは顔を見合わせると声を上げて笑う。

　「解った解った！その時はアンタも一緒に連れて行くわよ、バンブルビー」

バシバシとハンドルを叩きながらチャーリーが告げれば了承を得られたことが嬉しかったらしいバンブルビーが勝手に速度を上げる。
　法定速度を無視したその速さにチャーリーとセツナは顔を引きつらせたのは言うまでもない。