ここに来て一体何をするのだろうか？
　そう思いながらセツナはバンブルビーから降りるとチャーリーに対し、疑問を問いかけるかのような眼差しを向ける。

　「ビー！変形してくれる？」

運転席側のドアを軽く手で数回叩いてチャーリーは変形するように促せば、バンブルビーは言われたとおり素直に車からロボットへと形を変えていく。
　けれど、変形する途中に周りの砂をチャーリーとセツナへと容赦なく掛ける。
　咄嗟に顔を手で覆ったため目に入るようなことはなかったのだが、髪やら衣服やらに潮の香りがする砂を浴びせられた２人は咎めるかのような目をバンブルビーへと向けた。

　「ごめん、チャーリー。砂場を選んだのは間違いだったかもしれない」

　「良いのよ。流石にコレは想定外だもの」

砂まみれになった自分の身体を見つめながらチャーリーが肩をすくめたときだ。
　バンブルビーは「またやってしまった！」と言うかのような焦った顔をすると、砂まみれの２人の頭へと指を伸ばす。
　少々乱暴な動作で砂を払ったバンブルビーは満足そうにコクコクと頷くが、それに対してチャーリーは呆れたような眼差しを向ける。

　「教えることが多くて大変だわ」

　「ママは大変だねぇ」

　「うっさい」

ため息を一つ吐いたチャーリーの言葉に対し、セツナが軽口で答えるとチャーリーはムッとした顔をして唇を尖らせた。
　そんな２人の姿をバンブルビーは黙って見つめており、２人のやりとりに対し何か思うところがあるのか頭のパーツをピコピコと動かしていた。

　「さてと、ここにビーを連れてきたのには事情があります。今朝のことを覚えていますね？」

改まった口調でそう告げたチャーリーはバンブルビーに対し、怒っていますよと言うかのような目を向ける。
　その目を見たバンブルビーはビクッと身体を震わせた後、何もしていませんよと言うかのような顔をしながらゆっくりとした動作でセツナの背後に回ると身を丸めた。
　けれど悲しいことに丸見えであるその姿にチャーリーは顔を引きつらせ、セツナは呆れたような顔をしてバンブルビーを見つめる。

　「ビー。セツナを盾にしない！！」

　「まぁまぁチャーリー。落ち着いて」

　「セツナもビーを甘やかさない！！」

　「はいはい。鬼軍曹様」

苦笑を浮かべたセツナが一歩左へと動けば、バンブルビーは行かないでと言うかのように手を伸ばしてきたが、その手に対しセツナは優しく微笑みかけるとポンポンと指先を叩く。

　「それで？ここに来た目的は何？」

　「決まっているでしょ。練習よ。今朝みたいに人目を気にせずに街中で手を振られたりなんかしたら、大問題になって困るじゃない」

当たり前のことのようにそう告げたチャーリーの言葉にバンブルビーとセツナは「なるほど」、と言うかのように頷く。
　
　「ビー・・・アンタのその姿は私とセツナ以外には見せちゃ駄目だからね？人間って自分とは違う存在に恐怖を抱くんだから」

　「そうだね。もしもビーが誰かに見つかれば、研究所とかに連れて行かれてバラバラにされちゃうかもしれない」

チャーリーの警告じみた言葉とセツナの非情な現実を突きつけられたバンブルビーは怯えるかのように青い目を彷徨わせる。

　「そうならないように練習するの。大丈夫、私とセツナがちゃんと駄目なことをアンタに教えるから」

バンブルビーを安心させるかのように頬を撫でながらチャーリーは告げると、時間が惜しいと言うかのようにパンッと大きく手を叩くと練習を開始した。