無事にチャーリーの母からバンブルビーを取り戻し、動物病院へと向かい犬の診察を終えると一度家に戻る事になった。
　ガレージの前にバンブルビーを停車させたチャーリーは母と共に車から降りると、着替えてくるから少し待っていて欲しいと告げて家の中に入っていく。

　「ビー。街の中で腕とか出したら駄目だよ」

幸いな事にあの時間帯に走っている車がいなかったから見つからなかったが、もしも通勤時間帯等でであれば誰かの目に確実に見られていただろう。
　それこそ街中の噂になり大事件になることが間違い無い。
　そうなったときのことを想像したセツナが恐怖故かブルリと身体を震わせたときだ。
　フロント硝子にあるワイパーがゆっくりと左右に動いたことに気づく。

　「もしかして、心配してくれてるの？」

そう問いかければ肯定するかのようにワイパーが激しく動き、さすがに雨が降っていないのにワイパーを動かすのは可笑しいと判断したセツナはハンドルの脇にあるワイパー用のレバーを引いて動きを止めた。

　「ありがとう」

助手席に座っていたセツナが礼を告げると、今度は何かを訴えるかのようにカーラジオがノイズ音を出す。
　何かを訴えているのだと理解したセツナはチャンネルを合わせるためツマミを掴むと、ラジオ局を選局するのだが聞こえてくるのはノイズ音だけだ。

　「壊れちゃってるね」

労るかのようにそっとラジオを指先で撫でればラジオの電源が音を立てて切られる。

　「貴方とお話がしてみたいけどちょっと難しいみたい」

思い出すのは昨夜のバンブルビーの姿だ。
　喉を押さえて首を振っていたことから恐らく本来は話が出来たのだろう。
　何故しゃべれなくなったのかは解らないが、あの廃ボート置き場に放置されていたことを含めてバンブルビーには秘密があるような気がした。

　「（記憶を失っていることも関係しているのかなぁ？）」

右も左も解らないバンブルビーの姿は幼子のようで、何となくだが保護欲を誘うものがあるのだ。
　それこそチャーリーの弟のオーティスと括弧でくくれるかもしれない、そう密かに思ったセツナがクスクスと笑っていたときだ。
　着替えを終えたチャーリーが現れ運転席のドアを開く。

　「笑っていたけど何かあった？」

　「ちょっとね。ほら、ビーってさちょっとオーティスに似てるなぁって思って」

　「あー・・・解る。悪戯っ子なところとかそっくり」

慣れた様子でチャーリーはエンジンをかけると、どこかへ向かってバンブルビーを走らせ始めた。

　「セツナ。この辺で人気のない場所って知ってる？ビーにロボットの姿になって貰う予定だから、できれば広い場所の方が良いんだけど」

　「それなら浜辺は？今日はちょっと天気が悪いから人がいないと思うよ？」

窓越しに見える空には薄灰色の雲が広がっており、雲の薄くなったところから微かに太陽の光が差し込んできている。
　晴天とも、曇天とも言えない、何とも微妙な天気に浜辺に遊びに来る者は少ないだろうとセツナは判断して提案した。

　「なるほど。浜辺があったね。じゃ、ちょっと行ってみようか」

　「念のため売店が無い方にしようよ？」

　「オッケー」

万が一を想定し、可能な限り人が来ないだろう方を選んだセツナの言葉にチャーリーは頷くとバンブルビーをその場所へと向かって走らせる。
　時間にしてそれほど長い距離ではないのだが、初めて手に入れた車という事もあってかチャーリーは途中色々な場所により道をしていく。
　気づけば時刻が昼を過ぎていたため、偶然見つけたガソリンスタンドで軽食とコーヒーを購入した２人は車内でそれを食べながらおしゃべりをする。
　浜辺に着く頃になると空は灰色の雲が覆い尽くしており、少しばかり冷たい風が当たりに吹きすさんでいた。