チャーリーの家に向かって歩いているセツナの足取りはあまり軽快なものではない。今朝になり単身赴任している父に電話をし、バンブルビーの事は伏せつつも「変形する車が欲しい」という無茶なお強請りをしつつもバンブルビーのような存在が他には居ないのか探りを入れてみたのだが、父からの返答は「映画と現実は違うんだよ」という事だった。

　「軽くあしらわれたけど・・・何も知らないって訳じゃなさそうなんだよねぇ」

ポツリと呟いたのと同時にセツナは歩みを止めると視線を落とす。
　変形する車、それを口にしたとき電話越しの父が一瞬息を呑んだ音がしたのをセツナは聞いたのだから。
　他愛ない話をしてから通話を終えようとしたセツナに対し、父は歯切れの悪いような口調で告げた。



　「危ないことだけはしないように」



何か確信を得ているかのような父の言動が妙に気になっていた。
　その為チャーリーの家に向かうのが少しばかり遅くなってしまった。

　「気持ちを切替えよう」

パシンッと自分の頬を軽く叩いて気持ちの切り替えを行ったセツナは、止めていた足を再び動かし始める。
　あと少しでチャーリーの家、というところでガレージが開いていることに気づくと小首を傾げた。
　バンブルビーの洗車でもするのだろうか？そう思っていたセツナの視界の片隅で玄関ドアが勢いよく開き、中から血相を変えたチャーリーが出てきたかと思えばガレージ前に置かれていた原付を道路へと移動している事に気づいたセツナは小走りでチャーリーの元へと向かう。

　「チャーリー？どうしたの？」

車を手に入れたのに何故原付で行動するのだ？そう言うかのように問いかけたとき、ガレージの中にいるはずの黄色の車がない事に気づく。

　「ビーは？姿が見えないけど」

　「ママが乗っていったの！！」

　「・・・・えぇ！？な、なんで？」

　「オーティスの犬が何か食べちゃったから病院に連れて行った。ママの車はロンが使うからって事で私の車を勝手に使ったの」

チャーリーの車が本当にただの車ならばここまで動じることは無い。
　けれどあの車は変形するのだ。
　もしも街中で変形でもしたら大事になってしまう。
　そう思ったセツナの顔から血の気が引いていく。

　「セツナ！後ろに乗って！ママを追いかけるから」

　「解った」

持っていた鞄を肩にかけ直したセツナはチャーリーの後ろに座ると彼女の腹部に両手を回す。
　最初っからスピードを上げて動物病院へと向かって道路を走行していたチャーリーだったが、目的の車を見つけると声を上げた。

　「見つけた！！」

その声にセツナは身体を少し動かして前を見ると、確かに見慣れた黄色の車が走っている姿を見つけた。
　近づいてくるチャーリーとセツナに気づいたらしいバンブルビーはトランク部分を変形させる。
　現れたのは一本の腕で、まるで２人に対して挨拶するかのようにヒラヒラと大きな手を左右に振り始めるのだがそれを見せられるチャーリーとセツナの心境としては冗談ではないというものだ。

　「昨日散々言ったのにッ・・・」

地を這うかのようなドスのきいたチャーリーの声にセツナは顔から血の気を引かせる。
　コレは本気で怒っている、そう判断するとセツナはすぐさま手を引っ込めるように必死に手を振るのだが、バンブルビーはセツナが手を振り返してと判断したらしく嬉しそうにブンブンと大きく手を振り返してきた。