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嫌味になる程の雲一つない晴天の空をセツナは見上げていた。
風が吹く度に黒いスカートがバサバサと音を立てて大きく揺れ、脚に絡みつき不快な感覚を与えてくる。
少し離れた所から聞こえてくる嘆きの声、そうやって泣き叫べればどれだけ楽になれるのだろうか?そう思いながらセツナは見慣れた背中をジッと見つめることしか出来ない。
昔からずっと見てきた背中。
それはいつだって頼もしくて、セツナを引っ張ってくれていた大きな背中であったはずだ。
けれど、今その見慣れた背中はとても小さくて、そして酷く頼りない。
「泣いても誰も貴方を責めないよ」
ポツリと呟いた言葉は彼女の耳に届いているはずなのに、何の反応も返されることはない。
意地っ張りなことは長い付き合いから知っている為、セツナはそれ以上何か言葉を投げかけることはせず、ただ、黙って側にいることを決めた。
どれくらいそうしていたのかは解らないが、絶えず聞こえていた胸を締め付けるかのような悲痛な泣き声が聞こえなくなった頃には、青かった空は茜色に変わり、吹いていた風も微かに冷たくなっていた。
何かを必死に堪えるかのように凜と伸ばされた背中、それが小憎たらしくて、それと同時に彼女の中に一生消えない傷が出来てしまったのだということをセツナは悟った。
「泣けば良いのに」
苛立ちを込めて再度口にした言葉は優しいものではない。
セツナは彼女のフォローを、父親を失ったチャーリーに寄り添うようにと周りの大人達から言われていた。
セツナとて最初はチャーリーの痛みに寄り添うつもりだった。
父を失ったチャーリーの痛みと悲しみが少しでも薄れれば良いと思ったのに、それなのにこの強情な幼なじみは涙一つも流さず、それどころか周りと自分とを切り離すかのように距離を取ったのだ。
そうすることで自分を守ったのだということをセツナは理解したのだが、周りの大人達はそんなチャーリーの態度に困惑し、かといって無視する事など出来はしなかったため、幼なじみであるセツナに白羽の矢を立ててきた。
「意地っ張りチャーリー」
昔からこの幼なじみが一度決めたら頑なである事くらい知っている。
そのせいで何度も何度も喧嘩をして、その度にチャーリーの父親が仲裁に入ってくれたのだから。
「・・・ねぇ。何か言ってよ。もうこれからは私達で何とかしなきゃならないんだから。喧嘩したって、魔法の言葉で仲裁してくれる人はいないんだよ」
セツナにとってチャーリーの父は尊敬できる人だった。
だからこそ彼を失った痛みを彼の娘であるチャーリーと共に感じ、そしてその傷を埋めたいと思っているのに何故かチャーリーはソレを拒否した。
気づいたときにはボロボロと目から涙を流していて、風が吹く度に涙が流れた後が異様なくらい冷たく感じられ、これがきっと大人達の言う”喪失感”と言うものなのだろうなぁとセツナが思っていたときだ。
「なんてアンタが泣くのよ」
苦笑交じりの言葉と共にセツナの頬を伝う涙をチャーリーの指が拭う。
その指からは彼女の父の指とよく似た臭いがした。
オイルと金属の混じった臭い。
それがとても懐かしくて、そしてとても悲しかった。
「チャーリーが、泣かないからッ!!!」
優しく頬を拭う指先はぎこちないが、どこか彼女の父を思わせてセツナは嗚咽を上げて泣き始める。
コレでは立場が逆ではないか、そう思いながら泣き続けるセツナの姿を見たチャーリーは困ったように微笑むとセツナを抱きしめた。
「泣き虫セツナ」
喧嘩する度に口にしていた悪口は今日に限っては声音に険はなく、どこか気遣うかのような柔らかなものだった。
どれくらいの間、チャーリーに抱きついて泣いていたのかセツナには解らない。
無言のままチャーリーから離れたときには茜色の空が薄紫色に変わっており、空にはキラキラと輝く星がその存在を主張し始めていた。
二人は無言のまま星を見上げていた。
互いに交わす会話はないが、繋いだ手の温もりだけが側に誰かがいるのだという何よりの証明だった。
「・・・私ね、パパの残したコルベットを直そうと思う」
「え、でもそれって凄く難しいんじゃ?」
「うん。でも、私は直すよ。だってあの車が直って、走るようになったらッ・・・」
堪えきれないと言うかのように言葉を詰まらせたチャーリーの方にセツナが視線を向けると、そこには夜空を睨み付けるかのようにして泣いているチャーリーの姿があった。
「パパに私の声が届くかなぁ?」
ボロボロと泣きじゃくる幼なじみの痛々しい姿にセツナは気づけば彼女の頭を掻き抱いていた。
縋るように背中に回される腕、喪服を引っ掻く指先、それら全てがチャーリーの本心である事に気づいたセツナは無言のまま彼女を抱きしめる事しか出来ない。
もっと違う事が出来れば、もっと気の利いた事が言えれば良いのに、そう思いながらチャーリーを抱きしめる。
そんな二人を夜空に輝く星がただ黙って見つめていた。
風が吹く度に黒いスカートがバサバサと音を立てて大きく揺れ、脚に絡みつき不快な感覚を与えてくる。
少し離れた所から聞こえてくる嘆きの声、そうやって泣き叫べればどれだけ楽になれるのだろうか?そう思いながらセツナは見慣れた背中をジッと見つめることしか出来ない。
昔からずっと見てきた背中。
それはいつだって頼もしくて、セツナを引っ張ってくれていた大きな背中であったはずだ。
けれど、今その見慣れた背中はとても小さくて、そして酷く頼りない。
「泣いても誰も貴方を責めないよ」
ポツリと呟いた言葉は彼女の耳に届いているはずなのに、何の反応も返されることはない。
意地っ張りなことは長い付き合いから知っている為、セツナはそれ以上何か言葉を投げかけることはせず、ただ、黙って側にいることを決めた。
どれくらいそうしていたのかは解らないが、絶えず聞こえていた胸を締め付けるかのような悲痛な泣き声が聞こえなくなった頃には、青かった空は茜色に変わり、吹いていた風も微かに冷たくなっていた。
何かを必死に堪えるかのように凜と伸ばされた背中、それが小憎たらしくて、それと同時に彼女の中に一生消えない傷が出来てしまったのだということをセツナは悟った。
「泣けば良いのに」
苛立ちを込めて再度口にした言葉は優しいものではない。
セツナは彼女のフォローを、父親を失ったチャーリーに寄り添うようにと周りの大人達から言われていた。
セツナとて最初はチャーリーの痛みに寄り添うつもりだった。
父を失ったチャーリーの痛みと悲しみが少しでも薄れれば良いと思ったのに、それなのにこの強情な幼なじみは涙一つも流さず、それどころか周りと自分とを切り離すかのように距離を取ったのだ。
そうすることで自分を守ったのだということをセツナは理解したのだが、周りの大人達はそんなチャーリーの態度に困惑し、かといって無視する事など出来はしなかったため、幼なじみであるセツナに白羽の矢を立ててきた。
「意地っ張りチャーリー」
昔からこの幼なじみが一度決めたら頑なである事くらい知っている。
そのせいで何度も何度も喧嘩をして、その度にチャーリーの父親が仲裁に入ってくれたのだから。
「・・・ねぇ。何か言ってよ。もうこれからは私達で何とかしなきゃならないんだから。喧嘩したって、魔法の言葉で仲裁してくれる人はいないんだよ」
セツナにとってチャーリーの父は尊敬できる人だった。
だからこそ彼を失った痛みを彼の娘であるチャーリーと共に感じ、そしてその傷を埋めたいと思っているのに何故かチャーリーはソレを拒否した。
気づいたときにはボロボロと目から涙を流していて、風が吹く度に涙が流れた後が異様なくらい冷たく感じられ、これがきっと大人達の言う”喪失感”と言うものなのだろうなぁとセツナが思っていたときだ。
「なんてアンタが泣くのよ」
苦笑交じりの言葉と共にセツナの頬を伝う涙をチャーリーの指が拭う。
その指からは彼女の父の指とよく似た臭いがした。
オイルと金属の混じった臭い。
それがとても懐かしくて、そしてとても悲しかった。
「チャーリーが、泣かないからッ!!!」
優しく頬を拭う指先はぎこちないが、どこか彼女の父を思わせてセツナは嗚咽を上げて泣き始める。
コレでは立場が逆ではないか、そう思いながら泣き続けるセツナの姿を見たチャーリーは困ったように微笑むとセツナを抱きしめた。
「泣き虫セツナ」
喧嘩する度に口にしていた悪口は今日に限っては声音に険はなく、どこか気遣うかのような柔らかなものだった。
どれくらいの間、チャーリーに抱きついて泣いていたのかセツナには解らない。
無言のままチャーリーから離れたときには茜色の空が薄紫色に変わっており、空にはキラキラと輝く星がその存在を主張し始めていた。
二人は無言のまま星を見上げていた。
互いに交わす会話はないが、繋いだ手の温もりだけが側に誰かがいるのだという何よりの証明だった。
「・・・私ね、パパの残したコルベットを直そうと思う」
「え、でもそれって凄く難しいんじゃ?」
「うん。でも、私は直すよ。だってあの車が直って、走るようになったらッ・・・」
堪えきれないと言うかのように言葉を詰まらせたチャーリーの方にセツナが視線を向けると、そこには夜空を睨み付けるかのようにして泣いているチャーリーの姿があった。
「パパに私の声が届くかなぁ?」
ボロボロと泣きじゃくる幼なじみの痛々しい姿にセツナは気づけば彼女の頭を掻き抱いていた。
縋るように背中に回される腕、喪服を引っ掻く指先、それら全てがチャーリーの本心である事に気づいたセツナは無言のまま彼女を抱きしめる事しか出来ない。
もっと違う事が出来れば、もっと気の利いた事が言えれば良いのに、そう思いながらチャーリーを抱きしめる。
そんな二人を夜空に輝く星がただ黙って見つめていた。