その音がとても悲しげであった事に気づいたセツナはどうしたのだろうか？と思いながらそっとロボットへと手を伸ばしその頬に触れる。
　金属特有の冷たさとゴツゴツとした感触ではあるが触れた場所が何故か暖かいような気がしたセツナは、ロボットの青い目をのぞき込みながら微笑みかける。

　「大丈夫？」

問いかけにロボットはしばしの間、何も反応をしなかったがセツナがもしかして何か不調があるのだろうかと不安になったとき、ロボットは悲しそうな機械音を鳴らす。

　「もしかして、自分に名前がないのが嫌なの？」

チャーリーの言葉が正解だったらしくロボットは何度も大きく頷き、自分にも名前が欲しいとチャーリーに訴える。
　その反応にチャーリーはどうしたものかと言うかのように顔をしかめていたが、必死に懇願するかのような音に気づくと肩をすくめた。

　「蜂みたいな音を出すのね」

　「言われてみればホントそうだね。それにこの子ってさ、マルハナバチみたいな色をしていると思わない？」

　「そういやそうだね・・・うん。決めた！！あんたの名前はバンブルビー」

蜂にちなんだ名前をつけたチャーリーが黄色のロボット、バンブルビーを見上げる。
　新たにつけられた名前が気に入ったらしいバンブルビーは嬉しさを表すかのように頭のパーツをピコピコと動かし、何度も何度も頷く。
　その姿を見たチャーリーはバンブルビーの顔に抱きつくと頬と頬を重ねる。

　「今日からよろしくね、バンブルビー」

手に入れた愛車がまさか変形するとは思わなかったが、新たに得られた家族をチャーリーは祝福する。
　そんな幼なじみの顔を見たセツナは良かったと純粋に思う。
　チャーリーのこんな穏やかな顔を見るのは本当に久しぶりで、まるで彼女の父親が生きている時のようだと思っていたときだ。
　固い感触が背中に触れたかと思えば身体がバンブルビーの方へと引き寄せられる。
　気づけばセツナもバンブルビーの顔の真ん前に立っており、その事に驚き目を白黒させていたセツナを見たチャーリーが声を上げて笑う。

　「あはは！バンブルビーってばアンタの事をよっぽど気に入ったのねぇ」

チャーリーの言葉にバンブルビーは同意するかのように頷く。
　その姿を見たセツナは困ったように微笑みながらバンブルビーの頬を撫でた時だ。
　彼の首筋の近くに何かが刻まれていることに気づき、何だと思い身を乗り出してみるとそこにはある文字が刻まれていた。

　「Ｂ－１２７？」

これはどういった意味だろうか？そう思いながらセツナはバンブルビーを見るが、当の本人は言われている意味が分からないらしく不思議そうに瞬きを繰り返すだけだ。
　恐らく、何かしらの意味を持っているのだろうが今のバンブルビーには理解が出来ないことなのだろうと判断する。

　「Ｂ？ってことはこの子もしかしてビーって愛称で呼ばれてたりしたのかな？」

　「かもね」

苦笑を浮かべたセツナであったが壁に掛けられている時計が示す時刻を見て驚いたように目を開いた後、こうしてはいられないと言うかのように焦った顔をしてバンブルビーの手を叩く。

　「ごめん。私そろそろ帰るね。さすがにチャーリーの家に行ってるからと言っても限度があるだろうから」

　「あぁ・・・もうこんな時間なんだね。明日も来る？」

　「うん。勿論！！」

バンブルビーから離れたセツナは部屋の隅に置かれていた鞄を手に取ると、ガレージの側にある出口へと向かって歩き出したがすぐにその歩みは止る。
　何故前に進めないのか？そう言うかのような不思議そうな顔をして小首を傾げたセツナが自身の背後を見ると、そこにはセツナの上着を掴んでいるバンブルビーの姿があった。
　どこに行くの？そんな事を訴えるかのような目を見たセツナは嫌な予感を抱きながらバンブルビーへと身体を向ける。