1話:手に入れたのは不思議な車でした
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「ハンクおじさん。私、今日誕生日なんだ」
年頃の娘が強請る誕生日プレゼントにしては不釣り合いな代物。
ソレを欲しいと願う娘、そしてその娘の友が必死に手助けをしようとしている姿。
ここに来たときと変わらない2人の姿にハンクは自分には最初から勝ち目などなかったことを悟った。
そもそもこの2人が初めて来た時に彼女達の申し出を受け入れた時点で、ここに通う2人の姿を当たり前のように受け入れていた時点で自分は絆されていた事をハンクは理解していた。
「金もいらん。雇用するつもりもない。床の掃除も不要だ」
「ッ・・・」
悔しさを堪えるかのようにチャーリーはキツく拳を握りしめた時だ。
「チャーリー。誕生日おめでとう・・・アレはお前さんの車だ」
初めて聞くハンクの柔らかな声音にチャーリーとセツナが彼を見ると、そこには穏やかに微笑んでいるハンクの姿があった。
何を言われたのかチャーリーもセツナも最初は理解が出来なかった。
けれど微笑むハンクの後ろで従業員のビルがニカッと笑いながら親指を立てているのを見て、ハンクがあのビークルを誕生日プレゼントして譲ってくれるのだと理解したチャーリーはお礼を告げると、居ても立ってもいられないという様子でビークルの元へと向かう。
「ありがとうございます!!」
「セツナ」
「はい?なんでしょう?」
「・・・家のトイレはもう十分すぎる程に綺麗だ」
フンッと鼻を鳴らしたハンクの言葉にセツナはプッと吹き出して笑うと、深々とハンクに向かって頭を下げる。
「本当に色々とありがとうございました」
「礼は不要だ。ほら、早く行ってやれ。チャーリー1人じゃあのボロ車を直すのは難しいぞ?」
「はい!!」
チャーリーに続くかのように去って行ったセツナの姿をハンクは微笑ましいという気持ちで見送る。
ここに来たときのチャーリーの顔には悲壮感しかなく、セツナはそんな友を支えるために必死であった。
店に通っている内に他愛ない話をするようになり、チャーリーがここに何を探しに来ているのか知ったハンクは少しばかり同情した。
けれどそれを顔にも口にも態度にも出すことはしなかった。
ハンク自身も解らなかったがそうしなければならないと無意識の内に判断したのだ。
「良かったんですか?アレ、直るとは思えませんよ?」
「そんな事は知らん。ソレを欲しいと願ったのはチャーリーなんだからな」
ビルの言葉にハンクは素っ気なく応えながらも薄々感じ取っていた。
チャーリーはきっとあの車を直すだろうと。
エンジンが掛かった車を前にきっとチャーリーとセツナはこれ以上ないと言う程嬉しそうに笑う姿が簡単に想像出来た。
「お前さん達の笑った顔が見られただけで十分さ」
金にならないモノを対価としてもらうなど自分らしくもないとハンクは思いながらも、そんなことができた自分を少しだけ誇らしかった。
視界の片隅でニヤニヤと笑う従業員の姿に気づくと、彼等に対して仕事をするように告げるとテレビを手に取り電源を入れた。