17章:砕けた心から溢れ出たモノ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「私が何も知らないと思ってるの?」
咎めるかのような声音、自分を害する者へと問いかけるかのような素っ気ない口調、ソレに気づいた母とラチェットの目に焦燥が浮かぶ。
「母さんは赤ちゃんを産んだら死ぬかもしれないんでしょう?それを解った上で産むことを決めたんだよね?」
「・・・えぇそうよ」
心のどこかで否定して欲しいと望んでいた若葉へと返された肯定の言葉を聞いた瞬間、若葉は今まで嘘をつかれていたのだと理解すると唇を歪めて乾いた笑い声を上げる。
「若葉。落ち着いて聞いて欲しい。確かに博士の出産にはリスクが生じる。だが、そのリスクを少しでも低くするために我々は動いているんだよ。ただ、その事を君に伝えてしまえば君が思い悩むと思い、この事を伏せることを決めたのは私だ。責任ならば私にあるから、責めるのならば私にしなさい」
母を庇うかのようなラチェットの発言はいつもの若葉ならば納得の出来る言葉であったのだが、裏切られた、騙された、と感じている若葉にとっては火に油を注ぐかのような発言でしか無い。
「私ってそんなに信用なかったんだ」
「違うよ。博士も私も大人として君を守りたかったんだ」
「私は守って欲しいんじゃない!!!」
叫ぶような声にラチェットは口を閉ざす。
部屋の中に満ちる沈黙。
母に繋がれている機械から微かに聞こえてくるモーター音を聞いていると、思考が上手くまとめられず、何が正しいのか解らなくなってくる。
「若葉」
母の呼ぶ声に引き寄せられるかのように若葉は母へと視線を向ける。
「私のした事が結果として貴方を傷つけたのならば謝るわ・・・・でも、でもね。これだけは信じて欲しいの。私は貴方とメガトロンとこの子の四人で生きていきたいのよ」
真っ直ぐ自分へと向けられる母の視線に若葉は泣き出しそうな顔をする。
嘘ではない。
そう解っているのにその言葉を信じられない。
「だったらどうして、父さんは母さんが死ぬなんてことを言ったの?」
若葉の言う父さん、それが誰を意味しているのか瞬時に理解した母は最初こそ驚愕した顔をしていたが、すぐに何が娘の身に起こっているのか理解する。
「若葉。貴方に私の事を伝えたのはあの人なのね?」
「うん」
「あの人の言う事は忘れなさい。あの人は・・・貴方の父親ではないわ。あの人は根っからの研究者であり、自らの研究を立証するためならば家族すら犠牲にすることを厭わない人なの」
母の口から語られた言葉を聞いた若葉はソレを納得できると思う反面、何故かソレを素直に受け入れることをできなかった。
「母さん。何で今まで父さんのことを隠していたの?」
「それは・・・・」
一瞬だけ言葉を探すかのように視線を彷徨わせた母であったが、意を決したかのように凜とした眼差しで若葉を見つめると答えた。
「貴方にあの人を近づけさせたくなかったからよ。会えばきっと・・・若葉は傷つくだろうと思ったから」
父親という存在に対してある種の理想像を築いているだろう娘に対して現実を突きつけることの意味を母は解っていた。
けれどそれを今の娘に伝えても伝わらない、そう思う母の脳裏に浮かぶのは久方ぶりに再会した若葉の実父の姿だった。