16章:母の秘密
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目に浮かぶ涙でゆらりと揺れる若葉の目を見つめながら父は慈しむかのような優しい声音で話しかける。
「アイツの事だ。恐らくお前に再婚をしたいと話した時には自分が妊娠していることに気づいていただろう。それなのにお前にソレを伝えず、お前がメガトロンと義理の親子関係が無事に築けた頃に話すつもりだったんだろうが・・・でも、それはちょっと狡いとは思わないか?お前からの信頼を得たいのならばちゃんと伝えておくべきだった」
優しい声と頭を撫でる掌と自分を愛おしげに見つめる父の眼差し、ソレはまるで甘い毒のように若葉の全身を巡り始めていく。
少しずつ、少しずつ、母に対する絶対的な信頼が消えていく。
その度に心の中に広がっていくのは母に対する不信感だ。
若葉の目に浮かぶ感情に父は満足そうに目を細めると、もうそろそろトドメを刺してしまっても問題はないと判断を下す。
「・・・お前だって我慢してきたことがたくさんあっただろう?ソレも全部、母さんを思ってのことだったはずだ。でもアイツはそんなお前の気持ちに気づいていながらも、ソレに気づかぬふりをし続けてきた。アイツはお前の優しさに甘えていただけだ」
そう告げた父はソレまで浮かべていた慈愛に満ちた表情も声も消すと、若葉に触れていた手をそっと離す。
温かな掌が離れていくことに不安げな顔をした若葉の目に映った父の顔には、憐れみと同情の感情が浮かんでいた。
「母さんはお前をずっと裏切っていたんだよ、若葉」
その言葉を聞いた瞬間、若葉は自分の心の奥底でパキンッと何かが音を立てて砕けたのを感じ取った。
砕けてしまった何かから溢れ出してきたのは、幼い頃からずっと抱いていた母に対する不平不満、そして強い憎しみだ。
溢れ出した様々な激情に若葉の頭は熱くなり、視界が白く霞む中、若葉はこの場には居ない母を呼ぶ。
「かあさん」
助けて、そう声にならない声で母を求めるが母が今は危険な状態で入院しているのだからここに来る事は不可能だと理性が告げる。
我儘を言って母を困らせてはいけないと頭の片隅で何か必死に声を張り上げる。
頭ではそれが正しいことくらい若葉にも解っている。
けれど、解っていても母を求めてしまう心を止められない。
どうして来てくれないの?私だって貴方の娘なのに。
恨めしげな感情と共に母に対する怒りを抱く。
黒い感情が心を塗りつぶしていく感覚に若葉は駄目だと必死に思うが、溢れ出した激情は僅かに残っていた理性を容易く飲み込んでしまう。
母を否定する感情と母を肯定する感情が交互に入り乱れ、若葉の心をグシャグシャにしていった。
「(母さんが悪いんじゃない。いつだって悪いのは私だ・・・無知で愚かな私は何度も母さんの幸せを邪魔して、奪ってきた。だからきっとこれは私への罰で、母さんが悪いんじゃない)」
隠し事ばかりしていた母に対する強い怒りが心に満ちていくのと同時に、母にそんな行動を取らせてしまったのは幼くて愚かな自分のせいではないか、という自責の念が心の中で渦をグルグルと巻く。
いつも若葉ならば最終的には自分が悪いのだと折り合いをつけることが出来たのだろうが、今日は何故かそれをすることが出来ない。
「若葉。お前は悪くない。悪いのは母さんなんだから」
そうはさせないと言うかのような声で告げたのは父だ。
若葉の絶対的な味方だと言うかのように、優しい声で父は若葉の中にある母への負の感情は間違いでは無いのだ、ソレを抱くことは悪くはないのだと囁く。
「だけど・・・」
母と暮してきた日々が若葉の頭の中に浮かぶ。
辛い事も、寂しいことも、悲しいこともあったが、それ以上に楽しいことも、嬉しい事も、たくさんあったのだ。
父の言葉に従う事、それはそんな記憶を思い出を全てを否定する事になってしまう。
ソレは駄目だと若葉は思うと、父の言葉に従おうとしていた自分の弱い心を叱咤する。
「母さんだけが悪いわけじゃない」
掠れた声でそう言葉を返した瞬間、父の雰囲気が一変した。
「アイツの事だ。恐らくお前に再婚をしたいと話した時には自分が妊娠していることに気づいていただろう。それなのにお前にソレを伝えず、お前がメガトロンと義理の親子関係が無事に築けた頃に話すつもりだったんだろうが・・・でも、それはちょっと狡いとは思わないか?お前からの信頼を得たいのならばちゃんと伝えておくべきだった」
優しい声と頭を撫でる掌と自分を愛おしげに見つめる父の眼差し、ソレはまるで甘い毒のように若葉の全身を巡り始めていく。
少しずつ、少しずつ、母に対する絶対的な信頼が消えていく。
その度に心の中に広がっていくのは母に対する不信感だ。
若葉の目に浮かぶ感情に父は満足そうに目を細めると、もうそろそろトドメを刺してしまっても問題はないと判断を下す。
「・・・お前だって我慢してきたことがたくさんあっただろう?ソレも全部、母さんを思ってのことだったはずだ。でもアイツはそんなお前の気持ちに気づいていながらも、ソレに気づかぬふりをし続けてきた。アイツはお前の優しさに甘えていただけだ」
そう告げた父はソレまで浮かべていた慈愛に満ちた表情も声も消すと、若葉に触れていた手をそっと離す。
温かな掌が離れていくことに不安げな顔をした若葉の目に映った父の顔には、憐れみと同情の感情が浮かんでいた。
「母さんはお前をずっと裏切っていたんだよ、若葉」
その言葉を聞いた瞬間、若葉は自分の心の奥底でパキンッと何かが音を立てて砕けたのを感じ取った。
砕けてしまった何かから溢れ出してきたのは、幼い頃からずっと抱いていた母に対する不平不満、そして強い憎しみだ。
溢れ出した様々な激情に若葉の頭は熱くなり、視界が白く霞む中、若葉はこの場には居ない母を呼ぶ。
「かあさん」
助けて、そう声にならない声で母を求めるが母が今は危険な状態で入院しているのだからここに来る事は不可能だと理性が告げる。
我儘を言って母を困らせてはいけないと頭の片隅で何か必死に声を張り上げる。
頭ではそれが正しいことくらい若葉にも解っている。
けれど、解っていても母を求めてしまう心を止められない。
どうして来てくれないの?私だって貴方の娘なのに。
恨めしげな感情と共に母に対する怒りを抱く。
黒い感情が心を塗りつぶしていく感覚に若葉は駄目だと必死に思うが、溢れ出した激情は僅かに残っていた理性を容易く飲み込んでしまう。
母を否定する感情と母を肯定する感情が交互に入り乱れ、若葉の心をグシャグシャにしていった。
「(母さんが悪いんじゃない。いつだって悪いのは私だ・・・無知で愚かな私は何度も母さんの幸せを邪魔して、奪ってきた。だからきっとこれは私への罰で、母さんが悪いんじゃない)」
隠し事ばかりしていた母に対する強い怒りが心に満ちていくのと同時に、母にそんな行動を取らせてしまったのは幼くて愚かな自分のせいではないか、という自責の念が心の中で渦をグルグルと巻く。
いつも若葉ならば最終的には自分が悪いのだと折り合いをつけることが出来たのだろうが、今日は何故かそれをすることが出来ない。
「若葉。お前は悪くない。悪いのは母さんなんだから」
そうはさせないと言うかのような声で告げたのは父だ。
若葉の絶対的な味方だと言うかのように、優しい声で父は若葉の中にある母への負の感情は間違いでは無いのだ、ソレを抱くことは悪くはないのだと囁く。
「だけど・・・」
母と暮してきた日々が若葉の頭の中に浮かぶ。
辛い事も、寂しいことも、悲しいこともあったが、それ以上に楽しいことも、嬉しい事も、たくさんあったのだ。
父の言葉に従う事、それはそんな記憶を思い出を全てを否定する事になってしまう。
ソレは駄目だと若葉は思うと、父の言葉に従おうとしていた自分の弱い心を叱咤する。
「母さんだけが悪いわけじゃない」
掠れた声でそう言葉を返した瞬間、父の雰囲気が一変した。