16章:母の秘密
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彼はきっと事実しか口にしてはいないのだ、そう認識したのと同時に頭の中を占めたのは”自らの命と引き替えに子を産む”という言葉だ。
突然すぎる展開に言葉を失っていた若葉の様子に気づいたらしい父は驚いたように目を見張った後、持っていた資料を元の場所へと置くと不思議そうな声で問いかけてきた。
「なんだ。知らなかったのか・・・ならば解りやすく説明しよう。人間と金属生命体との間に子など出来るわけなどないというのが我々の認識だったのが、お前の母親はソレを実現させた。ある意味で奇跡と呼べる現象だが、奇跡なんてそうそう起こるものじゃない。それこそ奇跡を起こすのならば対価が必要となる。お前の母親は奇跡の代償に自らの命を捧げるつもりらしいな」
「嘘だ」
「こんな嘘をついて私に何の利がある?」
返される言葉には感情などは無い。
だからこそ若葉には父の言葉が事実なのだと認識することが出来た。
「お前という娘がいるのにも関わらず自らの命を対価に差し出すなんてアイツは何を考えているのだろうな?」
その言葉に若葉はすぐさま言葉を返せなかった。
父の言葉はまるで、母がお腹の子と若葉を天秤に掛けた結果、母の天秤が傾いたのは赤子の方だと暗に伝えていたからだ。
そんなわけなどない。
きっと母には何か考えがあったはずだ、と必死に自分に言い聞かせるのだが頭の中を支配するのは母が自分を見捨てたという事実ばかりだ。
「・・・アイツはお前よりもメガトロンとの子どもを選んだようだな」
違う。
そう否定したいのに唇は動いてはくれなかった。
ソレを認識した瞬間、若葉は自分の胸の内にぽっかりと穴が空いてしまったことを理解するのと同時にここに来たのはやっぱり間違いだったのだと思ってしまった。
母が我が子の存在を天秤に掛けるような人ではないと必死に心が叫んでいるのだが、ソレを否定するかのように頭の中では心当たりがある事が次々と思い出され、どちらに従うべきなのだろうか?と若葉は考える。
必死に自分の気持ちを整理しようとしている若葉の姿を見た父は一瞬だけ、チラリと部屋の片隅にある空気清浄機へと視線を向ける。
チカチカと点滅する緑色の光に満足そうに微笑む。
けれどその笑みをすぐに消すと若葉へと話しかける。
「そもそもお前をここに連れて来たときに詳しい説明はあったか?」
「・・・ない」
「お前の事を思うのならばこそ話すべきだったと私は思うがな。それこそメガトロンと再婚をするのならば、彼との子を産むのならば尚のこと全てを打ち明けておくべきだろう。・・・これから家族になるのならばこそ、な」
「母さんは私が動揺すると思って、私のことを思って隠していただけだよ」
「本当にお前の事を思っているのならば隠してはならない事だってあるはずだ」
至極当然のことのように父から告げられる言葉に若葉は何も言えず、ただ黙って唇を噛むことしか出来ない。
病室で初めて出会った時の若葉ならばすぐさま反論したのだろうが、母が自分の命を引き替えにして子どもを産もうとしたことを知った為、それに対する動揺から、若葉は何一つとして言葉を発する事が出来ずにそっと視線を足下へと落とす。
空気清浄機の音がやけに耳障りで、冷静になろうとしている自分の邪魔をするかのようにモーター音が若葉の心を荒々しくかき乱す。
「若葉」
優しく名前を呼ばれるのと同時にそっと頭を撫でられる。
愛おしむかのように、壊れ物に触れるかのように、そっと触れてくる父の掌。
それはメガトロンとは違ったものだ。
「私ならば母さんのような事はしない。・・・家族ならばこそ隠し事なんてしては駄目だとは思わないか?ましてや子どもが出来た事も、そして子どもを産むことで自分の命が危険になるなんていう重大な事をギリギリまで隠すなんて卑怯な事はしない」
足下に落としていた視線をゆっくりと上げていくと、自分を見下ろしている父と目が合う。
優しげに微笑んでいる父の顔を見ていると何故か解らないが声を上げて泣きたくなってしまう。
突然すぎる展開に言葉を失っていた若葉の様子に気づいたらしい父は驚いたように目を見張った後、持っていた資料を元の場所へと置くと不思議そうな声で問いかけてきた。
「なんだ。知らなかったのか・・・ならば解りやすく説明しよう。人間と金属生命体との間に子など出来るわけなどないというのが我々の認識だったのが、お前の母親はソレを実現させた。ある意味で奇跡と呼べる現象だが、奇跡なんてそうそう起こるものじゃない。それこそ奇跡を起こすのならば対価が必要となる。お前の母親は奇跡の代償に自らの命を捧げるつもりらしいな」
「嘘だ」
「こんな嘘をついて私に何の利がある?」
返される言葉には感情などは無い。
だからこそ若葉には父の言葉が事実なのだと認識することが出来た。
「お前という娘がいるのにも関わらず自らの命を対価に差し出すなんてアイツは何を考えているのだろうな?」
その言葉に若葉はすぐさま言葉を返せなかった。
父の言葉はまるで、母がお腹の子と若葉を天秤に掛けた結果、母の天秤が傾いたのは赤子の方だと暗に伝えていたからだ。
そんなわけなどない。
きっと母には何か考えがあったはずだ、と必死に自分に言い聞かせるのだが頭の中を支配するのは母が自分を見捨てたという事実ばかりだ。
「・・・アイツはお前よりもメガトロンとの子どもを選んだようだな」
違う。
そう否定したいのに唇は動いてはくれなかった。
ソレを認識した瞬間、若葉は自分の胸の内にぽっかりと穴が空いてしまったことを理解するのと同時にここに来たのはやっぱり間違いだったのだと思ってしまった。
母が我が子の存在を天秤に掛けるような人ではないと必死に心が叫んでいるのだが、ソレを否定するかのように頭の中では心当たりがある事が次々と思い出され、どちらに従うべきなのだろうか?と若葉は考える。
必死に自分の気持ちを整理しようとしている若葉の姿を見た父は一瞬だけ、チラリと部屋の片隅にある空気清浄機へと視線を向ける。
チカチカと点滅する緑色の光に満足そうに微笑む。
けれどその笑みをすぐに消すと若葉へと話しかける。
「そもそもお前をここに連れて来たときに詳しい説明はあったか?」
「・・・ない」
「お前の事を思うのならばこそ話すべきだったと私は思うがな。それこそメガトロンと再婚をするのならば、彼との子を産むのならば尚のこと全てを打ち明けておくべきだろう。・・・これから家族になるのならばこそ、な」
「母さんは私が動揺すると思って、私のことを思って隠していただけだよ」
「本当にお前の事を思っているのならば隠してはならない事だってあるはずだ」
至極当然のことのように父から告げられる言葉に若葉は何も言えず、ただ黙って唇を噛むことしか出来ない。
病室で初めて出会った時の若葉ならばすぐさま反論したのだろうが、母が自分の命を引き替えにして子どもを産もうとしたことを知った為、それに対する動揺から、若葉は何一つとして言葉を発する事が出来ずにそっと視線を足下へと落とす。
空気清浄機の音がやけに耳障りで、冷静になろうとしている自分の邪魔をするかのようにモーター音が若葉の心を荒々しくかき乱す。
「若葉」
優しく名前を呼ばれるのと同時にそっと頭を撫でられる。
愛おしむかのように、壊れ物に触れるかのように、そっと触れてくる父の掌。
それはメガトロンとは違ったものだ。
「私ならば母さんのような事はしない。・・・家族ならばこそ隠し事なんてしては駄目だとは思わないか?ましてや子どもが出来た事も、そして子どもを産むことで自分の命が危険になるなんていう重大な事をギリギリまで隠すなんて卑怯な事はしない」
足下に落としていた視線をゆっくりと上げていくと、自分を見下ろしている父と目が合う。
優しげに微笑んでいる父の顔を見ていると何故か解らないが声を上げて泣きたくなってしまう。