室内に満ちたピリッとした雰囲気に全員の顔が強ばる中、ふぅっと呆れたようなため息を吐いたラチェットはいつも通りの声で告げた。

　「人間達の考えている事なんて私にはさっぱり解らない・・・ただ一つだけ言えるのは、そのある専門家さんは明日の夕方頃にここに来るらしく、その準備でレノックスがぼやいていたよ。どうやら少しばかりクセのあるお客さんらしい」

そこで言葉を止めたラチェットはサウンドウェーブへと視線を向ける。
　赤いバイザーで隠された目元は解らないが、恐らく自分を見る赤い目は余計な事をいうなと言うかのように鋭く細められているのだろうなぁとラチェットは感じ取っていた。

　「なにが言いたい？」

　「君と博士との間に子が出来たという事は私としても嬉しい」

友人が新たな命を得られたことをラチェットは純粋に喜ぶ。
　医者故にラチェットは今まで失われていく命をいくつも見てきた。新たな命が誕生するという瞬間に立ち会うのは本当に久しぶりのことだ。

　「ただ、それを心から喜ぶ者ばかりではないことを覚えていたまえ」

　「警告か？」

　「あぁそうだ」

ラチェットなりに持っている情報網からすでにいくつか焦臭い話が上がってきている。
　それと今回急に決まった専門家の訪問は繋がっている事くらい、この場に居る者達全員が理解していた。
　サウンドウェーブが急ぎだと言ってメガトロンの元にきた事も関係あるな、とこの時になってメガトロンは理解すると自らの中心へと視線を向ければ、サウンドウェーブは静かに首を縦に動かした事からこの二つは最低最悪な意味合いで繋がっている、そうラチェットが口にしようとした時だ。
　メガトロンが全員に黙れと言うかのように唇の上に指を一本立てる。
　それを合図に全員が条件反射で口を噤んだときだった。

　「閣下」

掠れた声が寝室の方から聞こえたかと思えば、真っ赤な顔をした若葉がメガトロンの背後から姿を現す。

　「どうした？」

　「のど、かわいた」

　「解った。水を持ってくるからベッドで待っていろ」

　「はい」

熱があるのと寝起きからなのか若葉はぼんやりとした目をしていたが、メガトロンの側に見慣れた顔がある事に気づくと不思議そうに小首を傾げる。

　「若葉。熱があるとメガトロンから聞いて往診に来たんだ」

　「ごめんなさい」

自分のためにラチェットがわざわざ来てくれた、ただでさえ忙しいのに迷惑を掛けてしまったと思った若葉が申し訳ないと言うかのように頭を下げたのを見たラチェットは、大丈夫だと言うかのように微笑みながらそっと若葉の背を撫でる。

　「謝らなくて良い。きっと疲れてしまったんだね。さぁ、ベッドに横になろうか」

　「ラチェットさん。母さんは？」

　「大丈夫だよ。博士の容態は安定しているし、私の助手を置いてきたからね。何かあれば私もすぐに戻るさ」

若葉が安心するように言葉を選びながらラチェットは若葉を寝室へと押し戻し、ベッドへと誘導すると、どこか痛いところはないのか？いつごろから気分が悪かったのか？などという質問をしていた。

　「いくら急ぎの案件だったとしても君がここに来るのは珍しいね。いつもは何かあれば通信かテキストメッセージで報告してくるだろう？」

不思議そうに小首を傾げてオプティマスはサウンドウェーブへと問いかけると、サウンドウェーブは赤いバイザーの奥にある目を若葉へと向けていた。

　「彼女に少し用があったからな」

感情の宿らない無機質な声音でそう告げたサウンドウェーブはオプティマスは不思議そうに見つめながら、珍しい事もある事だなぁと言いたげに小首を傾げていた。