静かな浴室の中に響く音と言えば天井から落ちた雫がピチャン、ピチャン、とお湯に落ちる音だけだ。

　「えぇっと・・・何、とは？」

意味が分からない。
　そう訴えるかのように若葉が答えると、アーシー、クロミア、エリータワンは無言のまま視線を合わせるとコクンと頷く。

　「とりあえずお風呂から出ましょう」

にっこりと微笑んでいるアーシーの目が欠片も笑ってはいない事に気づいた若葉は、その怒り方が母と同じである事を悟るとこれ以上、アーシーを刺激して怒らせる事はしてはならないと瞬時に理解するとバスタブから出る。
　即座に待っていましたと言うかのように二枚のバスタオルが若葉へと襲いかかる。髪を拭かれ、身体を拭かれ、着替えをさせられた後はドライヤーで髪を乾かされ、ようやく全ての事が終わった事に若葉がホッと胸をなで下ろす。

　「ありがとうございました」

　「良いのよ。じゃ、リビングに行きましょうか」

朗らかに微笑んだクロミアはそう告げると問答無用で若葉の両腕を掴むとリビングへと連れて行く。
　丸みのあるソファに座った若葉はこれから何が始まるのだろうか？と困惑していたとき、音も無くグラスが差し出されたため条件反射でグラスを掴む。
　
　「オレンジジュースよ」

　「ありがとうございます」

グラスを渡してきたのはエリータワンで彼女は少し心配そうな目をして若葉を見て居る。
　全員が飲み物を手にし、それぞれ愛用しているソファに座ったのが合図だった。

　「それで？どうしてあんな事をしようとしたの？」

アーシーの中では未だに怒りが燻り続けているらしく、厳しい目を若葉へと向けている。若葉は何故アーシーが突然怒りながら浴室に来たのか解らず、そしてクロミアとエリータワンが自分に対して妙に気を遣っている原因が何一つとして解らない。
　縋るようにオレンジジュースの入ったグラスを握りしめながら若葉は心底困ったと言うかのような声でアーシーに向かい問いかける。

　「あんな事って？私はただお風呂に入っていただけですけど、もしかしてお風呂の使い方が違っていましたか？」

だからあんなにも血相を変えて、それこそ怒りの形相で浴室にアーシー達は雪崩れ込んできたのかもしれない。
　使い方が違えば壊れてしまう可能性があり、そしてここは軍事施設ともなれば修理するのも税金で行われる。どこの組織も大抵は出費を控えるために経費削減を掲げているので、修理などをするとアーシー達の評価が下げられてしまう可能性がある。
　それならば全ての辻褄が合う、そう思った若葉は日本で住んでいるアパートと同じ感覚で浴室を使った事が拙かったのだと思い反省したときだ。

　「若葉。貴方、命を絶とうとしたんじゃないの？」

　「え？」

何故そうなる？
　状況が理解できない若葉が目を白黒させる事しか出来なかった時だ。

　「その、申し訳ないけど、家に来てからの貴方の身体状態をこっそり確認していたの」

　「お風呂で倒れちゃったら困るなぁって思ってね」

　「呼吸が突然止ったと思ったら段々と心拍がおかしくなったから・・・」

アーシー、クロミア、エリータワンの発言に若葉は何も言えずにポカンと口を開けている事しか出来ない。

　「実際に貴方ってばバスタブの中に沈んでいたでしょ？だから、あぁこれが日本流の自殺方法なんだって思ったら・・・こう、頭に血が上っちゃって」

本当に申し訳なかった。
　そういったアーシーを切っ掛けに３人が一斉に頭を下げた。