一人っ子の若葉にとって姉妹という存在は憧れの存在でもある。
　元が金属のロボットだったとしても、人間の姿をしているアーシーはまるで少し年の離れたお姉ちゃんという印象だ。
　そのアーシーから色々と親切にされると少しばかり胸の奥底がくすぐったいような気がしてしまう。

　「私もそんなお姉ちゃんになりたいなぁ」

母が産む子が男なのか、女なのか、どちらなのかは解らないが、新しい家族にとって自分が頼りになれる存在になれば良いなぁと若葉は思うと目を細めて笑う。
　けれどその笑みはすぐに消える。
　幼い頃は、何も解らない頃まではきっと新たな家族は自分を慕ってくれるだろうが、大きくなればきっと半分しか血の繋がらない自分の事など見向きもしなくなるだろうと思ってしまう。
　それはきっと生まれてきた子がメガトロンの子である事が大きい。
　メガトロンの部下達はきっと生まれてきた子を敬うだろうなということくらい、ここ数日の付き合いで若葉は感じ取っていた。
　所詮自分はオマケ程度の認識しかされてはいない、そう思った若葉はもしかしたら自分は赤ちゃんに近づくことも難しいかもなと思う。

　「期待はしない方が良い」

母とメガトロンと赤ちゃんとの輪の中に当たり前のように加わる事は許されないかもしれない。
　それこそまさに成人したら自立しろと突き放される可能性だってあるのだ。

　「ヤバい。進路のこと本当に考えておかなきゃ」

そう呟いた若葉は朧気だった自分の将来に関して考え始める。
　恐らく進学するにしても、就職するにしても色々と制限が掛かる事は想像出来た。メガトロンは口にはしなかったが、彼はきっと若葉には目の届く範囲にいて欲しいのだろうなと若葉は判断している。
　それを口にしないのは、一言でも言ってしまえば若葉が従うと解っているからだ。

　「優しすぎるんですよ、閣下は・・・・」

その優しさが向けられるような人間では自分はないのに、そう思った若葉は掌でお湯をすくう。
　指の隙間から零れ落ちていく水がバスタブの中に落ちる音が響くのを若葉は聞きながら、何度も何度も同じ動作を繰り返す。
　
　「まるで私みたい」

零れ落ちていく水を見つめながら若葉は自嘲の笑みを浮かべて呟くと、持ち上げていた手を水の中へと落とす。
　冷えていた手がお湯に暖められていくジワジワとした感覚を感じ取った若葉は幼い頃、母と一緒にお風呂に入ったときのことを思い出す。



　「ちゃんと肩まで浸かるのよ？」



そう言った母は若葉と一緒にバスタブに身を沈めると１００まで数えてくれた。
　１人でお風呂に入ることが当たり前になってしまった今となっては懐かしい記憶、愛おしい記憶だ。

　「母さん」

温かいお湯に浸かっているはずなのに何故か、全く身体が温まらない。
　お腹の奥底から冷たい何かが全身に伝わっていく感覚に気づいた瞬間、若葉はこれはマズイ感覚だと理解すると、ソレから逃れるためお湯の中へと沈み込む。
　耳元で聞こえてくるゴポゴポという水泡の音を聞きながら若葉がそっと目を閉じた時だった。
　ザブンッという音と共に微かな振動が聞こえたかと思えば、勢いよくお湯の中から引き上げられる。
　何が起こったのか解らない、そう言うかのような呆然とした顔をしている若葉が視線を動かすとそこには怒りで顔を歪めているアーシーの姿があった。
　少し離れた所にはクロミアとエリータワンの姿もあり、２人もアーシーと負けず劣らずの怒りを抱いているらしくムッとした顔をして腕を組んでいる。

　「何をしていたの？」

低く唸るような声で問われた若葉はその問いにすぐには答えられなかった。