この場に居る者達全員が「空気読んで黙っていろよ」と言いたげな顔をしながらオプティマスを半眼になって見つめ続けるのだが、当のオプティマスはそんな視線など気づいていないかのような楽しげな声で口を開く。
　
　「何も私の欲求を満たすためではない。マリカーがしたいとか、バイオがしたいとか、ジャパニーズホラーゲームがしたいとか、そんな事は欠片も思ってはいないさ」

軽快な笑みを浮かべながらもどこか悲しそうな雰囲気を漂わせるオプティマスの発言に、若葉は本当はそういうことがしたいのだと悟ると、少しばかりはその要望に応えてあげるべきなのかもしれないと思った時だ。

　「メガトロン」

若葉が初めて聞く悲痛な声音でオプティマスはメガトロンの名を呼ぶ。
　覚悟を決めたかのような目をしてオプティマスに名前を呼ばれたメガトロンは、何となくオプティマスが言いたいことを悟りながらもそれに気づかぬふりをしつつも返事をした。

　「なんだ？」

　「我々に起きた事を若葉嬢に聞かせるのならば私も同席すべきだ。お前１人が抱えるべき問題ではない」

　「なるほどな。だからこそお前の部屋を提供するという訳か？」

　「あぁ。その方が邪魔が入らないだろう？」

オプティマスとメガトロン、そして若葉が共に過ごすとなれば大抵の者達は遠慮をする。それ故の選択だとオプティマスが告げればメガトロンはしばし、何かを考えるかのように黙り込んでいたが、深々と息を吐き出すと降参だと言うかのように肩をすくめると告げた。

　「良いだろう。貴様の部屋を一晩借りるぞ」

　「あぁ！！」

嬉々として返事をしたオプティマスだったが、ある事に気づくと若葉の方へと視線を向ける。

　「若葉嬢。泊まりに来るのならば着替えとかが必要だろう？それにシャワーも浴びたくはないかな？」

　「え、あ、はい。できればシャワーを使わせて欲しいです」

頭のてっぺんから爪先にかけて自分が埃っぽい事に気づいた若葉が返事をするとオプティマスはゆっくりと頷く。

　「いくらメガトロンが一緒とは言え、流石に私の部屋でシャワーというのも少しばかり外聞が悪いだろうから私の部下の女性の部屋で浴びてくれるかな？」

　「誰の部屋を使わせるつもりだ？」

　「アーシーだ。彼女達の部屋でシャワーを浴びてから、私の部屋に来て話せば良いと思うが構わないか？お前の部下にも女性はいるが今は任務で不在だろう？」

　「・・・・あぁ。そうだったな。解った良いだろう」

保護者の了承を得られたオプティマスは携帯を取り出すと誰かに電話をし始める。
　いくつか電話越しの相手に報告をした後、ニコニコと微笑みながら会話を終えたオプティマスは若葉に向かい告げる。

　「彼女達の了承は得られた。３０分後にメガトロンの家まで迎えに来てくれるそうだからそれまでに準備を終えた方が良いな」

　「彼女達、ですか？」

　「あぁ。アーシーには姉妹のような存在がいてね、一緒に暮らしているんだ。クロミアとエリータワンの三姉妹だ。気さくな女性達だからすぐに打ち解けられると思うし、彼女達も君と話がしたいと思っていたらしく、君の訪問を心待ちにしているらしい」

　「・・・そうですか」

何でこの人はこういった大事なことを言わないのかなぁと思いながらも、若葉はその三姉妹を待たせるわけにはいかないと判断すると、メガトロンの家に向かう事を決め歩き出そうとしたが、ある場所へと視線を向ける。
　その場所に居るのは金属の蠍とミミズで、２体はどこか悲しげな雰囲気を漂わせながら若葉を見て居た。
　あまりにも悲痛なその雰囲気に若葉は気づけばヒラヒラと手を振っていて、その事に気づいた２体は嬉しそうに返答をしてくれた。