室内に満ちるコーヒーの香りと共にどこからか甘い香りが漂ってきたことに気づいた若葉は、あぁ彼がまたきっと大量の砂糖とミルクを入れたコーヒー牛乳を作り出したのだなと悟ると何とも言えない目をして宙を見つめることしか出来なかった。
　当のオプティマスは嬉しそうな笑みを浮かべながらソファに腰掛けるとすでにコーヒーと言えなくなったコーヒーを飲むと満足そうに頷く。

　「・・・プライム。何故貴様がここにいる？」

　「ラチェットがデータバンクにあげた博士の事を見たからだ」

和気藹々としていた雰囲気を消したオプティマスは青い瞳をメガトロンへと向ける。
　凜としたオプティマスの姿は若葉が初めて見るもので、コレは下手に口を挟むよりも大人しくしていた方が良いだろうと判断した若葉は側にあったクッションを抱きしめると二人の様子を伺う。

　「ほぅ？だからどうした？」

　「お前の事だから思い詰めているのだろうと思い、気になって足を運んでみたのだが若葉嬢との微笑ましい親子会話が聞こえてきたから黙っていたんだ」

　「・・・ふん、そんな気遣いなど不要だ。そもそもドアにはロックを掛けていたはずだが、貴様はどうやってアレを解除した？ロックはサウンドウェーブに任せたからそう簡単に突破はできんはずだ」

　「勿論！ドアノブを回してだが？あぁなにやら警告音のような音がしていたが・・・」

ケラケラと笑いながらオプティマスが告げた言葉に若葉は怪訝な顔をすると、今のオプティマスの発言は聞き間違いか？と問うかのようにメガトロンへと視線を向けてみる。
　そこに居たのは唖然とした顔をしたメガトロンで、彼は少しばかり焦った顔をしてリビングを出ていく。

　「メガトロンは君にとって良い父親のようだね」

ポツリと出た言葉は嬉しさとそして少しばかりの寂しさが宿っていた事に若葉は気づくと、オプティマスの方へと視線を向けた。
　ぎこちなく微笑むオプティマスの顔を見た若葉は、何故この人はこんなにも悲しそうに、苦しそうに微笑むのだろうか？と考えるがすぐに答えを見つけ出す。

　「（私はまた誰かの大切な人を奪ったんだ）」

母の恋人から母を奪い、オプティマスから彼の友人を奪った。
　他人を不幸にしてばかりだと思った若葉は無言のまま、ギリッと音がする程クッションの布を握りしめており、その音をすぐさま拾い上げたオプティマスは若葉の考えを否定しようとしたときだ。
　凄まじい勢いでリビングのドアが開かれる。

　「プライムッ！！貴様、ドアを破壊して侵入したなッ！？」

　「すまない。破壊するつもりはなかったのだが・・・」

　「ふざけるなッ！？ドアが直るまでこの家の警備はがら空きになるではないか！！俺に一人ならばどうにでもなるがこの家には今、年頃の娘がいるのだぞ？」

　「本当に心から申し訳なく思っている。・・・・そうだ！！私に良い考えがある！！ドアの修理が終わるまでの間は君達は私の部屋で過ごせば良い！！サムからお薦めの映画をいくつか教えて貰ったから一緒に見よう！！」

　「ソレのどこが良い考えだっ！！」

ただでさえ鋭い目をつり上げてメガトロンはオプティマスに食ってかかるが、オプティマスは猛抗議に対して嬉しそうに微笑みながら「映画が嫌ならゲームなんてどうだ？マリオカートをしよう！」「もしくはバイオなんてどうだ？」などと嬉しそうに提案をしている。
　喧嘩友達みたいなメガトロンとオプティマスの姿に若葉は何ともいえな気持ちになりながら、言い争う二人をジッと見ていたときだ。
　ポケットに入れていた携帯が震えていることに気づいた若葉はソレを取り出してみると、ディスプレイに表示されていた名前を見て小首を傾げる。
　メガトロンに聞いてみようと思ったが、オプティマスとの口論に夢中だったため通話ボタンを押して耳に携帯を当てるのと同時に声を出す。

　「・・・もしもし？」

　「突然申し訳ない。俺はオプティマスの部下だ。悪いがオプティマスがそっちに行っていないか？」

携帯越しに聞こえてきた男の声に若葉が答えるよりも早く電話の相手は納得したかのような声で「そこにいるな」とだけ呟いた。