唖然とした顔をしたまま母を見つめていたが、母は嬉しそうに微笑みながら自分のお腹を撫でており、先程の発言が嘘では無い事を物語っている。
　そんな母親とは対照的に若葉は今言われた言葉の意味をすぐに理解出来ず、パチパチと瞬きを繰り返す事しか出来ずにいた。

　「聞こえなかった？」

　「あ、ううん。聞こえた。妊娠って言ったんだよね？」

　「そう」

朗らかに微笑みながら当たり前のように母は答える。
　想像すらしていなかった返答に対して若葉は今にも思考を放棄してしまいそうになりながらも、必死に考える。
　相手は誰だ？決まっているではないか。
　そう判断した若葉は恐る恐る、メガトロンへと視線を向けてみれば強ばった顔をしているメガトロンと視線が合う。
　人を威圧するかのような雰囲気は今は消え、常に相手を威嚇するかのように鋭く細められている目はばつの悪そうに揺れている。
　ここに来てから初めて見るメガトロンの動揺した姿が若葉は珍しく、興味本位からジッと見つめていればその視線から逃れるかのようにメガトロンは赤い瞳を忙しなく左右に動かす。
　それがあまりにもメガトロンらしくなくて若葉はもしかして母のお腹の子の父親はこの人では無いのか？という嫌な予感を抱いた時だ。

　「えぇっと・・・心当たりが無い、と？」

　「そんなわけがあるか」

間髪入れずに返された声音は微かに震えていた。
　明らかに自分が動揺している事を理解したメガトロンは眉間に手を添えると深々と息を吐き出す。
　少し間、身じろぎしなかったがゆっくりと顔から手を離すと若葉の顔を真正面から見つめながら口を開く。

　「俺が父親だ」

　「ですよね」

違うと言われたらそれはそれで問題だ。
　ホッと胸をなで下ろした若葉は恨みがましい目をして母を見つめると、母は朗らかに微笑んでいた。
　その顔を見ていると何故か安心してしまった若葉はゆっくりと深呼吸をして気持ちを切替える。

　「本当に病気じゃないんだよね？」

　「そうよ。ラチェット軍医からもお墨付きを頂いてるわ」

　「えぇっと・・・おめでとう、で良いんだよね？」

　「ありがとう」

若葉の言葉を聞いた瞬間、母は今にも泣き出しそうな顔をして若葉の頬に手を添える。
　いつもよりも少しばかり冷たい母の体温に若葉は気づくと、冷えた指先を温めるかのように自分の手を重ねた。

　「本当はね、こういった事は若葉がこの人の事を父親として受け入れてからだって解っていたの」

触れた手が何かに怯えるかのように震えていて、悔いるかのように微かに伏せられた瞼が母の心境を物語っている事を若葉は理解する。

　「貴方が・・・私の再婚話を伝えてからずっと悩んでいることも知っていた。今まで秘密にし続けてきた私の仕事の事を知ってからとても困惑している事も解っていた。本当はもっと早くに話し合うべきだったのに、私は貴方の優しさと物わかりの良さに甘え続けた。ごめんなさい。私は貴方の母親なのにね・・・」

　「母さんが謝る事なんて無いよ」

母が自分の事を大切に思ってくれている事くらい若葉とて解っているのに子供じみた我儘を、癇癪を起こして母を困らせたのは他ならぬ自分だと若葉は思っているが、それを今の母に告げたとしても、自責の念に囚われている母は納得しない事くらい解っていた。
　どう言えば母が娘に抱く罪悪感を消してくれるのだろうか？自分の中にある知識全てを使って必死に若葉は考えるが、これだという答えも、これだという言葉も全くと言って良い程浮かんではくれない。
　肝心なときにどうして自分は駄目なのだろうかと若葉が思った時だ。