1章:知らせはいつも突然に
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母がこんな風に異性を語ることは今まで一度も無かった。
過去に紹介された人達もありきたりな言葉の説明しかしなかったが、今度の交際相手はどうやら今までの人達とは格が違うようだと若葉は感じ取っていた。
「(本気って事だよね)」
完全に惚れ込んでいるのだなぁと若葉は思いながら母の話に耳を傾ける。
けれど何となくだが不安が胸の中に生まれてしまう。
母の選んだ人なのだから間違いは無いと思う反面、母に嫌われぬよう上手く取り繕っている可能性も否定できないなと思いながら若葉は頭の中で見も知らぬ誰かの顔を想像していた時だ。
「それでね。相手の人が今後の事を含めて夏休み中に一度若葉ちゃんと会いたいって言っているの」
「夏休みに?明日にでも申請したら休み取れるだろうから問題ないよ。その人にいつ頃が都合良いのか聞いてみてくれる?」
本当ならば今後の貯蓄のためにも休みは極力入れたくはなかったのだが、相手が会いたいと言っている以上は仕方ないと若葉は思う。
ここで下手に動けば母はきっと先手を打ってくるだろう事は明らかだ。
「(母さん。1人暮らしには反対だからな)」
昔チラリと1人暮らしの事を言ってみたとき、ある意味で過保護と思えるような反応をしたのが若葉にとっては印象的だった。
「(母さんが出張の時だって1人で問題なく過ごしていたのに)」
母は若葉が中学に上がってから何度か出張と言って家を不在にするときがあったが、その時には何の問題もなく若葉は過ごしていたのだ。
その思った時、ふとある事に若葉は気づく。
出張を終えた母に若葉は母が不在の間のことを話したとき、母は若葉が伝えていないことも知っていた。
まるでその目で見ていたかのように語る母の姿に当時の自分は純粋に母親とは離れていても我が子のことが解るのか、凄いなぁと思っていたのだが、今にして思えばあまりにもそれは可笑しすぎた。
その不自然さに、違和感に、今になって気づいた若葉の背筋を嫌な物が伝い落ちていく。
「若葉ちゃん?」
「あ、ごめん。ちょっとバイトのシフト考えていただけだから気にしないで?」
「そう・・・あのね、バイト先って長期休暇取れるの?」
「長期?」
どういう意味だ?と言うかのように母を見つめていると、母は再び凄まじいレベルの爆弾発言をする。
「実はね相手の人はアメリカに住んでいるの。あ、ちなみに日本人じゃないわよ?」
信じられない発言に若葉は絶句することしか出来なかった。
母親が再婚すると言うだけでも衝撃だったというのにまさかその相手が外人であった為、若葉は考えることをついに放棄する。
とりあえずは母の話を聞こうと判断すると、続きを促すかのように母親へと視線を向けると母は嬉しそうに微笑みながら口を動かす。
「最初はね、若葉ちゃんの学校とかがあるから本当はあの人がこっちに来るって話だったんだけど・・・えぇっと、職場で厄介な問題が起きちゃったみたいでアメリカから離れられないらしいの」
「だから私達にアメリカに来て欲しいって?・・・その問題ってやつが片付いてからってのは駄目なの?」
「多分、あの人が居ないと知ったやんちゃな部下が暴走しそうなのよねぇ」
言い終わるのと同時に深々と溜息を吐いた母の姿に若葉は「人望ないんじゃないの?」と思ったが、まだ見ぬ母の再婚相手とやらを悪く言うことはできず口をつぐんだ。
「そっか。なら仕方がないね。明日にでも店長に相談してみるけど・・・パスポートとかどうするの?私持っていないから発行する手続きしに行かなきゃ」
カレンダーへと視線を向けた若葉は今からパスポートを申請しに行って間に合うのだろうか?そう考えながら難しい顔をしていると、母は場違いなほど明るい声で告げた。
「パスポートとか滞在先とかはあっちで用意するから心配いらないって言っていたわ」
「・・・え?いやいや、無理でしょ?宿泊先は良しとしても、パスポートに関しては無理でしょ?その人って国家権力でも持ってるわけ?」
何故そんな事を言えるのだ?そう思った若葉がすぐさま母の言葉を否定すると、母はゆるく首を振りながら携帯を取り出す。
画面を若葉に見えるように母は差し出した。
何だと思いながら若葉が画面を見ると再婚相手とのLINE画面が表示されており、それにはパスポート、アメリカまでの移動手段、滞在中の宿泊場所等に関して全て引き受けるという文章が書かれていた。
「え、マジ?」
「マジよ」
「母さんの付き合っている人って凄い人なの?」
「んーどうかな?今回の件は優秀な部下が手を回したって聞いているわ。まぁあの人自身も凄いのだけれどね?私達の事に関しても全て面倒見るから必要な物だけ持って安心してアメリカに来いって言っていたし。若葉ちゃんに会いたいって言ってくれたのもあっちからなのよ」
嬉しそうに答える母の言葉に若葉は顔をしかめる。
母が娘のことを最優先に考えている事を相手は見抜いた上での発言ではないだろうか?そういった疑問を抱くが嬉しそうにしている母を見るとそれを口にすることがどうしても若葉にはできなかった。
「アメリカ滞在中はね今後の事を含めて色々話したいし、若葉ちゃんともコミュニケーションを取りたいから夏休みの間はずっとアメリカに滞在して欲しいって言われているんだけど」
困ったように眦を下げながら母が告げた言葉にだから先程バイトの長期休暇がどうのとか言っていたのだなと若葉は1人納得する。
最愛の女性を手に入れる為に先に娘を懐柔するつもりなのだと理解すると、そう上手く事を運ばせるかと若葉が考えていた時だ。
「せっかくの夏休みを潰しちゃって悪いって言っていたわ。お母さんとしては交流をして欲しいなって思っているんだけど・・・若葉ちゃんはどうしても外せない予定とか、それこそ友達と何か予定とかあったりする?」
「夏休み中は特にこれと言って予定はないから良いよ」
「お友達と遊びに行かないの?」
「みんな彼氏とデートか家族旅行するみたい。だから私の夏休みの予定は元々空いていたからバイトで埋めるつもりだったから気にしないで良いよ」
友人達はリア充生活を満喫するらしいと若葉が軽い口調で告げれば母はホッとしたように微笑む。
それは娘の交友関係を自分が壊してしまうのかもしれないという恐怖が消えたことからだ。母のそんな態度を見て若葉は態度には出さないが少しだけ痛ましい気持ちになる。
思い出すのは今よりも幼い頃の自分の事だ。
母子家庭という自分達の立場が嫌でも突きつけられた時の嫌な記憶が蘇る。きっと母も自分と同じく今なお消えない記憶なのだろうなと若葉は思いながら母を見つめていた時、ふとある事に気づく。
「(アメリカと日本とじゃ長期休みに入るタイミングが違ったと思うんだけど・・・それなのに私の夏休みを把握してるの?)」
嫌な予感を抱きながら若葉は母を見るが、上機嫌な母の姿を見ているとそれを口にすることはどうしても出来なかった。
過去に紹介された人達もありきたりな言葉の説明しかしなかったが、今度の交際相手はどうやら今までの人達とは格が違うようだと若葉は感じ取っていた。
「(本気って事だよね)」
完全に惚れ込んでいるのだなぁと若葉は思いながら母の話に耳を傾ける。
けれど何となくだが不安が胸の中に生まれてしまう。
母の選んだ人なのだから間違いは無いと思う反面、母に嫌われぬよう上手く取り繕っている可能性も否定できないなと思いながら若葉は頭の中で見も知らぬ誰かの顔を想像していた時だ。
「それでね。相手の人が今後の事を含めて夏休み中に一度若葉ちゃんと会いたいって言っているの」
「夏休みに?明日にでも申請したら休み取れるだろうから問題ないよ。その人にいつ頃が都合良いのか聞いてみてくれる?」
本当ならば今後の貯蓄のためにも休みは極力入れたくはなかったのだが、相手が会いたいと言っている以上は仕方ないと若葉は思う。
ここで下手に動けば母はきっと先手を打ってくるだろう事は明らかだ。
「(母さん。1人暮らしには反対だからな)」
昔チラリと1人暮らしの事を言ってみたとき、ある意味で過保護と思えるような反応をしたのが若葉にとっては印象的だった。
「(母さんが出張の時だって1人で問題なく過ごしていたのに)」
母は若葉が中学に上がってから何度か出張と言って家を不在にするときがあったが、その時には何の問題もなく若葉は過ごしていたのだ。
その思った時、ふとある事に若葉は気づく。
出張を終えた母に若葉は母が不在の間のことを話したとき、母は若葉が伝えていないことも知っていた。
まるでその目で見ていたかのように語る母の姿に当時の自分は純粋に母親とは離れていても我が子のことが解るのか、凄いなぁと思っていたのだが、今にして思えばあまりにもそれは可笑しすぎた。
その不自然さに、違和感に、今になって気づいた若葉の背筋を嫌な物が伝い落ちていく。
「若葉ちゃん?」
「あ、ごめん。ちょっとバイトのシフト考えていただけだから気にしないで?」
「そう・・・あのね、バイト先って長期休暇取れるの?」
「長期?」
どういう意味だ?と言うかのように母を見つめていると、母は再び凄まじいレベルの爆弾発言をする。
「実はね相手の人はアメリカに住んでいるの。あ、ちなみに日本人じゃないわよ?」
信じられない発言に若葉は絶句することしか出来なかった。
母親が再婚すると言うだけでも衝撃だったというのにまさかその相手が外人であった為、若葉は考えることをついに放棄する。
とりあえずは母の話を聞こうと判断すると、続きを促すかのように母親へと視線を向けると母は嬉しそうに微笑みながら口を動かす。
「最初はね、若葉ちゃんの学校とかがあるから本当はあの人がこっちに来るって話だったんだけど・・・えぇっと、職場で厄介な問題が起きちゃったみたいでアメリカから離れられないらしいの」
「だから私達にアメリカに来て欲しいって?・・・その問題ってやつが片付いてからってのは駄目なの?」
「多分、あの人が居ないと知ったやんちゃな部下が暴走しそうなのよねぇ」
言い終わるのと同時に深々と溜息を吐いた母の姿に若葉は「人望ないんじゃないの?」と思ったが、まだ見ぬ母の再婚相手とやらを悪く言うことはできず口をつぐんだ。
「そっか。なら仕方がないね。明日にでも店長に相談してみるけど・・・パスポートとかどうするの?私持っていないから発行する手続きしに行かなきゃ」
カレンダーへと視線を向けた若葉は今からパスポートを申請しに行って間に合うのだろうか?そう考えながら難しい顔をしていると、母は場違いなほど明るい声で告げた。
「パスポートとか滞在先とかはあっちで用意するから心配いらないって言っていたわ」
「・・・え?いやいや、無理でしょ?宿泊先は良しとしても、パスポートに関しては無理でしょ?その人って国家権力でも持ってるわけ?」
何故そんな事を言えるのだ?そう思った若葉がすぐさま母の言葉を否定すると、母はゆるく首を振りながら携帯を取り出す。
画面を若葉に見えるように母は差し出した。
何だと思いながら若葉が画面を見ると再婚相手とのLINE画面が表示されており、それにはパスポート、アメリカまでの移動手段、滞在中の宿泊場所等に関して全て引き受けるという文章が書かれていた。
「え、マジ?」
「マジよ」
「母さんの付き合っている人って凄い人なの?」
「んーどうかな?今回の件は優秀な部下が手を回したって聞いているわ。まぁあの人自身も凄いのだけれどね?私達の事に関しても全て面倒見るから必要な物だけ持って安心してアメリカに来いって言っていたし。若葉ちゃんに会いたいって言ってくれたのもあっちからなのよ」
嬉しそうに答える母の言葉に若葉は顔をしかめる。
母が娘のことを最優先に考えている事を相手は見抜いた上での発言ではないだろうか?そういった疑問を抱くが嬉しそうにしている母を見るとそれを口にすることがどうしても若葉にはできなかった。
「アメリカ滞在中はね今後の事を含めて色々話したいし、若葉ちゃんともコミュニケーションを取りたいから夏休みの間はずっとアメリカに滞在して欲しいって言われているんだけど」
困ったように眦を下げながら母が告げた言葉にだから先程バイトの長期休暇がどうのとか言っていたのだなと若葉は1人納得する。
最愛の女性を手に入れる為に先に娘を懐柔するつもりなのだと理解すると、そう上手く事を運ばせるかと若葉が考えていた時だ。
「せっかくの夏休みを潰しちゃって悪いって言っていたわ。お母さんとしては交流をして欲しいなって思っているんだけど・・・若葉ちゃんはどうしても外せない予定とか、それこそ友達と何か予定とかあったりする?」
「夏休み中は特にこれと言って予定はないから良いよ」
「お友達と遊びに行かないの?」
「みんな彼氏とデートか家族旅行するみたい。だから私の夏休みの予定は元々空いていたからバイトで埋めるつもりだったから気にしないで良いよ」
友人達はリア充生活を満喫するらしいと若葉が軽い口調で告げれば母はホッとしたように微笑む。
それは娘の交友関係を自分が壊してしまうのかもしれないという恐怖が消えたことからだ。母のそんな態度を見て若葉は態度には出さないが少しだけ痛ましい気持ちになる。
思い出すのは今よりも幼い頃の自分の事だ。
母子家庭という自分達の立場が嫌でも突きつけられた時の嫌な記憶が蘇る。きっと母も自分と同じく今なお消えない記憶なのだろうなと若葉は思いながら母を見つめていた時、ふとある事に気づく。
「(アメリカと日本とじゃ長期休みに入るタイミングが違ったと思うんだけど・・・それなのに私の夏休みを把握してるの?)」
嫌な予感を抱きながら若葉は母を見るが、上機嫌な母の姿を見ているとそれを口にすることはどうしても出来なかった。